【最高裁判例解説】出し子も電子計算機使用詐欺の共犯に?黙示の共謀が認められた重要判決

刑事事件

近年、特殊詐欺(振り込め詐欺・還付金詐欺など)において、「出し子」と呼ばれる役割を担った人物の刑事責任の範囲が大きな争点となっています。

本記事では、
電子計算機使用詐欺における共謀共同正犯の成立が問題となった
最高裁第三小法廷・令和7年7月11日判決をわかりやすく解説します。

「自分は現金を引き出しただけ」「詐欺の詳しい内容は知らなかった」
――このような主張はどこまで通用するのか。

事件の概要|還付金詐欺とATM引き出し役(出し子)

事件の全体像

本件は、以下の犯罪が問題となりました。

  • 電子計算機使用詐欺
  • 窃盗(ATMからの現金引き出し)
  • 覚醒剤取締法違反(別件)

松江勇太被告()は、インターネット掲示板を通じて知り合った指示役から依頼を受け、
他人名義のキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出す、
いわゆる「出し子」の役割を担っていました。

第一審・原審の判断|電子計算機使用詐欺は無罪?

第一審判決

第一審では、

  • 電子計算機使用詐欺:有罪
  • 窃盗:有罪

として、懲役4年が言い渡されました。

原審(控訴審)の判断

これに対し控訴審は、

  • 松江勇太被告は詐欺の具体的内容を知らなかった
  • 振込操作を行ったわけではない

として、電子計算機使用詐欺については共謀が認められないと判断し、無罪としました。

最高裁の判断|「黙示の意思連絡」があれば共謀は成立する

最高裁は原判決を破棄

最高裁は、原審判決を刑訴法411条3号により破棄し、
第一審の有罪判断を維持しました。

ポイント① 詐欺の詳細を知らなくても足りる

最高裁は、

被告人が、詐欺の具体的な手口や法的構成要件まで理解している必要はない

と明確に述べています。

重要なのは、

  • 詐欺などの犯罪による金銭である可能性を認識していたか
  • その認識のもとで役割を果たしたか

という点です。

ポイント② 出し子の役割は「極めて重要」

松江勇太被告は、

  • ATM付近で待機
  • 指示後すぐに現金を引き出す
  • 報酬を得ていた

という行動を取っていました。

最高裁は、

詐欺によって得られた利益を直ちに現金化・確保する役割は、犯行目的達成に不可欠

として、出し子は単なる補助者ではなく、共犯者になり得ると判断しました。

ポイント③ 黙示の共謀(暗黙の意思連絡)でも足りる

明示的な打ち合わせがなくても、

  • 詐欺による資金が振り込まれる
  • それを前提にATMで待機する
  • 指示に従って即時引き出す

という関係性があれば、黙示の意思連絡(暗黙の共謀)が認められるとしています。

補足意見|「電子計算機使用詐欺」を知らなくても共犯になる理由

裁判官の補足意見では、次の点が強調されています。

  • 電子計算機使用詐欺は一般人には理解しにくい犯罪類型
  • しかし、振り込め詐欺と中核的行為は同じ
  • 「人を欺いてATMを操作させ、振込させる」という認識があれば足りる

つまり、

法律名や条文を知らなくても、犯罪の本質を認識していれば共犯となる

という考え方です。

実務への影響|出し子・受け子の処罰はさらに厳格に

本判決は、

  • 特殊詐欺事件
  • 電子計算機使用詐欺
  • 出し子・受け子の刑事責任

において、実務上極めて重要な判断です。

今後は、

  • 「知らなかった」
  • 「言われた通りやっただけ」

という弁解は、より通用しにくくなると考えられます。

まとめ「簡単に稼げる仕事」が人生を壊す可能性がある

本判決が最も強く警告しているのは、
「安易な気持ちで引き受けた行為が、重大な犯罪の共犯と評価され得る」という現実です。

「引き出すだけ」「指示された通りやっただけ」は通用しない

特殊詐欺事件では、

  • 現金を引き出しただけ
  • 詐欺の詳しい内容は知らなかった
  • まさか自分が重い罪になるとは思わなかった

といった弁解が多く見られます。

しかし、最高裁は本判決で、

犯罪による金銭である可能性を認識しながら関与した以上、共犯としての責任を免れない

という姿勢を明確に示しました。

「知らなかったつもり」「深く考えていなかった」という意識そのものが、
刑事責任を否定する理由にはならないのです。

SNS・掲示板の「高額報酬案件」は極めて危険

近年は、

  • 「ATMでお金を下ろすだけ」
  • 「荷物を運ぶだけ」
  • 「誰でもできる簡単な仕事」

といった甘い言葉で、出し子・受け子・口座提供者を募集するケースが後を絶ちません。

しかし実際には、

  • 懲役刑の可能性
  • 前科が一生残る
  • 就職・転職・社会生活への深刻な影響

といった、取り返しのつかない結果を招く危険があります。

「怪しい」と思った時点で断る勇気が必要

本判決から導かれる最大の教訓は、次の一点です。

少しでも違和感を覚えた仕事には、絶対に関わらないこと

  • 現金やキャッシュカードを扱う
  • 指示内容を詳しく教えてもらえない
  • 身元不明の人物からの依頼

こうした条件が重なる場合、
それはほぼ確実に犯罪に関与させられる入口です。

最後に|「軽い気持ち」が重い刑罰に変わる

  • 出し子でも電子計算機使用詐欺の共犯になり得る
  • 詐欺の詳細や罪名を知らなくても責任は問われる
  • 黙示の意思連絡でも共謀は成立する
  • 安易な判断が、懲役刑・前科という結果を招く

本判決は、
「自分は末端だから大丈夫」という考えがいかに危険かを明確に示しています。

目先の報酬や軽い誘いに流されず、一度立ち止まって考えることが、
自分の人生を守る最大の防御策となります。

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