【最高裁判決2025】ヒグマ駆除で銃許可取消→違法!砂川市猟友会員事件を徹底解説

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最高裁判決解説 行政法 銃刀法 鳥獣被害対策 裁量権逸脱

📅 令和8年(2026年)3月27日 | ⚖️ 最高裁判所第三小法廷 | 📂 令和7年(行ヒ)第25号

北海道砂川市の猟友会員が、市の依頼でヒグマを駆除した後、ライフル銃の所持許可を取り消されました。この行政処分について、一審は違法→控訴審で逆転(適法)→最高裁で再逆転(違法)という異例の経緯をたどった本件。令和8年3月27日、最高裁は全員一致で「処分は裁量権の逸脱・濫用にあたり違法」と判断しました。

なぜ最高裁は処分を違法としたのか。担い手不足という社会問題にまで踏み込んだ判決の全容を解説します。

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事件の背景

北海道砂川市に住むAさんは、北海道公安委員会からライフル銃の所持許可を受けた猟友会員です。砂川支部の支部長を務めながら、市が設置する鳥獣被害対策実施隊の隊員(非常勤公務員)としても活動していました。

2018年8月21日、市の職員Aから「ヒグマが出た」と出動要請を受けたAさんは現場へ向かいます。Aさんは当初「子グマなので逃がしましょう」と提案しましたが、市職員から「3日連続で出没しており、住民が強く駆除を希望している」と告げられ、駆除を引き受けることにしました。

市職員と警察官が周辺住民を避難誘導するなか、Aさんはライフル銃1発でヒグマを仕留めました。しかし、弾丸がヒグマを貫通し、近くにいた同僚・C隊員の猟銃の銃床に命中・貫通するという事態が起きました。

⚠️ 発射時の状況(問題となった点)

  • ヒグマとの距離は約18m。斜面の中腹に立ち上がったところを北北東方向に発射
  • 弾丸の延長線上には乙会館・一般住宅・本件建物など複数の建物が存在
  • 弾丸の飛線上に草木が繁茂し視界が悪く、「安土(バックストップ)」が確保できていなかった可能性
  • C隊員はAさんの指示とは異なるルートで斜面に進入しており、発射時に射線方向に位置していた

翌2019年4月、北海道公安委員会は「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって発砲したことは銃刀法10条2項違反にあたる」として、Aさんのライフル銃所持許可を取り消しました(本件処分)。Aさんはこの処分の取消しを求めて提訴しました。

3つの裁判所の判断

本件は一審・控訴審・最高裁で判断が二転三転しました。それぞれの判断を整理します。

第一審

✅ Aさん勝訴——処分は違法

本件処分を違法と認定し、Aさんの取消請求を認容。

控訴審(原審)——逆転

❌ Aさん敗訴——処分は適法

①周辺5棟の建物への弾丸到達の危険性があった、②C隊員が斜面北側に向かったと認識しながら発射した、③銃器取扱いの安全遵守事項に複数違反した——これらを重く見て処分を適法と判断。

最高裁(令和8年3月27日)——再逆転

✅ Aさん勝訴——処分は違法(全員一致)

発射行為の危険性は認めつつも、市の出動要請に基づく公務的活動であること・特措法の趣旨・担い手への萎縮的影響を総合考慮し、「重きに失し社会観念上著しく妥当を欠く」として処分を違法と判断。
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裁判所 結論 判断のポイント
第一審 処分は違法 取消請求を認容
控訴審 処分は適法 建物への危険・安全違反を重視。公益性・緊迫状況を考慮せず
最高裁 処分は違法 危険性は認めつつ、公務的活動・特措法の趣旨・担い手への影響を総合考慮
最高裁はなぜ逆転したか

最高裁は、Aさんの発射行為に危険性があったことは認めています。それでも処分を違法とした理由は何か。判決が示した3つの柱を解説します。

① 銃刀法は「取り消すことができる」——裁量の余地がある

銃刀法11条1項は「許可を取り消すことができる」と規定しています。つまり違反があれば必ず取り消さなければならないわけではなく、行政機関には裁量の余地があります。最高裁はこの裁量を前提に、「違反の態様・程度、社会への影響等を専門的知識も踏まえて総合的に考慮すべき」と示したうえで審査を行いました。

② 鳥獣被害防止特別措置法(特措法)の趣旨を軽視できない

特措法は、市町村が設置する鳥獣被害対策実施隊の活動を通じて、住民の生命・財産・生活環境への被害防止を図ることを目的とした法律です。Aさんはまさにその隊員として、市の正式な出動要請を受けて現場に赴きました。

「本件発射行為が、市の鳥獣被害対策実施隊員であった上告人に対する出動の要請を契機として行われたものであることに照らし、取消しをすることが特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれを生じさせる場合には、そのことを取消しに係る判断において事情として考慮することができる」
——最高裁令和8年3月27日判決より

要するに、「公益のために協力している制度の担い手を守ることも、判断に組み込まなければならない」という考え方です。

③ 経緯・状況・結果を総合すれば、処分は「重きに失する」

最高裁が重視したのは、事件に至る経緯の正当性と、発射時の緊迫した状況です。

01

正式な出動要請

市から依頼を受け、当初は逃がすことを提案。住民の要望を受けて駆除を決断した経緯に不適切な点はない。

02

18mの至近距離

目の前18mにヒグマがいる緊迫した状況。避難誘導は行政側が担っており、Aさんは駆除に専念せざるを得なかった。

03

死傷者は出ていない

C隊員の銃床に被弾したが、人的な死傷は生じていない。財産的損害にとどまった。

04

住民の安全を守る活動

住居が点在する地区でのヒグマ駆除は、地域住民の生活上の不安を取り除く重要な公益的活動。

🔴 最高裁が危惧した「取消処分が招く悪影響」

  • 鳥獣被害対策実施隊員が、有害鳥獣の駆除活動をためらうようになる
  • 民間人が隊員に任命されること自体を敬遠するようになる
  • 結果として、住民を守るという特措法の目的が骨抜きになる

これらを総合して最高裁は、「北海道公安委員会の判断は重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠く」と結論づけ、処分を違法と断じました。

裁判官の補足意見・個別意見

全員一致の結論でしたが、3人の裁判官が補足意見・意見を付しました。いずれも「現行制度の限界」を指摘し、立法的な解決を求める内容で、実務や今後の制度設計に重要な示唆を与えています。

林道晴裁判官・平木正洋裁判官(補足意見)

銃刀法や鳥獣保護管理法は、もともと「個人的な用務による銃猟」を主に想定した規定です。しかし本件は、自らもヒグマに襲われる危険を抱えながら、市の要請で公益のために動いた隊員の行動です。そのような事情を無視した法令解釈は「衡平を失する」と指摘しました。

また、近年の熊の市街地出没問題に触れ、発砲技術を維持・向上するための研修の実施や、第三者に被害が生じた場合に対応するための保険への援助など、担い手を守るための具体的措置を求めています。

渡辺惠理子裁判官(意見)

害獣駆除の担い手である民間人は、急な呼び出しへの常時対応、精神的な負担、傷を負った獣の反撃リスクを抱えながら、実質的にほぼ無償で公益に貢献しています。さらに、所持許可はそもそも自身の狩猟目的で取得したものであり、それを公益への協力を理由に取り消されることは「過酷」と述べています。

📌 渡辺裁判官が求めた制度見直しのポイント

  • 現行の銃刀法は「許可取消」か「不問に付す」の二択しかない——過失の程度に応じた段階的な処分ができない
  • 公益目的の発砲には、緊迫状況・過失の程度・公益性を勘案できる規定が必要
  • このまま担い手が報われない状況が続けば、将来的に駆除の担い手がいなくなるという強い懸念
この判決が持つ社会的意義
担い手不足問題への司法の応答

クマ・イノシシ・シカによる農林業被害や人身被害は、近年深刻さを増しています。一方で、銃猟による駆除に当たる担い手は全国的に高齢化・減少しており、後継者不足は切実な問題です。本判決は「公益のために協力した民間人を、その協力ゆえに不当な不利益から守る」という明確なメッセージを司法が発した、実務上も重要な先例となります。

行政裁量審査における「均衡の原則」

最高裁は「違反があったかどうか」だけでなく、「処分が利益と不利益のバランスを失っていないか」を問いました。行政処分の裁量審査において、違反の有無にとどまらず均衡・比例の観点を重視した判断として、行政法の分野でも注目されています。

立法への強いメッセージ

複数の裁判官が、現行の銃刀法に「取消か不問かの二択しかない」という構造的な問題を指摘しました。公益目的の緊急発砲に対応した段階的処分の仕組みや、担い手への研修・保険支援など、制度設計の抜本的見直しを求める強いメッセージが込められた判決です。

📌 この判決のポイントまとめ

  • 2018年8月、砂川市の猟友会員が市の要請でヒグマを駆除。弾丸がC隊員の銃床に被弾し、翌年に銃砲所持許可を取消された
  • 一審「違法」→控訴審「適法」→最高裁「違法(全員一致)」と判断が二転三転
  • 最高裁は発射の危険性を認めつつ、①公務的活動の経緯、②特措法の趣旨、③担い手への萎縮的影響を総合考慮して「重きに失する」と判断
  • 複数の裁判官が銃刀法の「二択構造」と支援制度の不備を指摘し、立法的解決を促した
  • 鳥獣被害の担い手確保という社会問題に、司法が正面から向き合った画期的な判決

【免責事項】本記事は令和8年3月27日の最高裁第三小法廷判決(令和7年(行ヒ)第25号)をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の法律問題に対するアドバイスを提供するものではありません。具体的な法律問題については弁護士等の専門家にご相談ください。

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