【岡山地裁判決】高梁市消防士の懲戒免職処分取消訴訟|酒気帯び運転の「故意なし」で処分が違法と認定

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高梁市の消防副士長として勤務していた男性が、酒気帯び運転を理由に懲戒免職処分を受けたのは違法だとして処分の取消しと損害賠償を求めた訴訟で、岡山地方裁判所(裁判長:森實有紀)は懲戒免職処分を取り消すとともに、被告(高梁市)に対して慰謝料150万円の支払いを命じました。

本記事では、判決文をもとに事件の経緯・争点・裁判所の判断を時系列順に詳しく解説します。

事件の基本情報

項目内容
裁判所岡山地方裁判所 第2民事部
裁判長裁判官森實有紀
原告高梁市消防署 消防副士長(男性)
被告高梁市
処分日令和4年(2022年)11月30日
訴訟提起日令和6年(2024年)7月17日
判決内容懲戒免職処分の取消し+慰謝料150万円の支払命令

原告(消防士)の経歴と懲戒歴

原告は平成20年(2008年)4月1日に高梁市に消防士補として採用されました。その後、消防士・消防副士長へと昇任し、本件処分日(令和4年11月30日)まで高梁市消防署に勤務していた地方公務員(一般職)です。

過去の交通違反歴(5件)

日付違反内容点数
平成20年7月19日指定横断等禁止違反1点
平成21年8月20日携帯電話使用等(保持)1点
平成21年10月15日座席ベルト装着義務違反1点
平成21年10月21日座席ベルト装着義務違反1点
平成29年10月24日速度超過(20以上25未満)2点

過去の懲戒処分歴(3件)

処分日処分内容処分理由
平成21年9月30日戒告(次期昇給2号給減)運転中の携帯電話使用
平成22年8月18日減給10分の1(2箇月)座席ベルト装着義務違反
平成27年12月4日停職(1箇月)元交際女性への傷害事件で逮捕(不起訴)

事件の経緯(時系列)

令和4年8月10日(夜)〜 飲酒の状況

原告は友人のAを自動車に乗せて岡山市内へ向かい、コインパーキングに駐車。その後、以下のように断続的に飲酒しました。

  • 午後9時頃〜 居酒屋(たん屋びぜん)でビール約3杯
  • 午後11時頃〜 相席バー(ジックスザラウンジ)で果実酒約2杯
  • 翌0時頃〜 ナイトクラブ(ベスティ)でカクテル1杯・シャンパングラス1〜2杯

令和4年8月11日 午前1時30分〜 トラブルと1回目の呼気検査

ナイトクラブを退店後、3人組の若者に因縁をつけられて言い争いになり、警察に通報。臨場した警察官が午前2時30分頃に呼気検査を実施した結果、アルコール濃度は呼気1リットルにつき0.05ミリグラムと、基準値(0.15ミリグラム)を大きく下回る数値でした。

令和4年8月11日 午前3時〜 ネットカフェで仮眠

警察官から「翌朝9時頃に岡山中央警察署で被害届の提出を決めましょう」と提案を受け、原告は友人Aとともに近隣のネットカフェ(快活クラブ岡山駅東口店)に入店。喫煙・食事(コンソメスープ・コーラ)・シャワーを経て、午前4時頃に就寝しました。

この間、飲酒は一切していません。

令和4年8月11日 午前8時頃〜 2回目の呼気検査と逮捕

午前8時頃に起床した原告は、自動車を運転して岡山中央警察署へ向かい(本件運転行為)、午前8時30分頃に到着。前夜担当した警察官と被害届について相談していたところ、酒臭を指摘され、2回目の呼気検査を受けることになりました。

その結果、アルコール濃度は呼気1リットルにつき0.17ミリグラムと基準値を超える数値が検出されました。

原告はその日のうちに道路交通法違反(酒気帯び運転)の容疑で逮捕されましたが、同月26日、嫌疑不十分のため不起訴処分となり釈放されています。

令和4年11月8日〜 免許停止処分

行政処分として、運転免許の効力を90日間停止する処分を受けました。

令和4年11月22日・28日〜 懲戒審査会

高梁市職員分限懲戒等審査会が開催され、委員会は以下の理由から懲戒免職が相当と判断しました。

  • 酒気帯び運転は懲戒事由に該当する
  • 消防行政の信用を失墜させた
  • 原告に過去の処分歴(加重事由)がある

令和4年11月30日〜 懲戒免職処分

高梁市消防長より懲戒免職処分が下されました。処分理由には「消防職という市民の生命と安全を守る職でありながら飲酒運転を行ったこと」「2度目の逮捕に至ったこと」「報道・市長謝罪により消防行政への信頼を大きく揺るがした」ことなどが挙げられています。

令和5年1月10日〜 審査請求

原告は岡山県人事委員会に対して処分取消しの審査請求を行いましたが、令和6年4月18日、処分承認の裁決がなされました。

令和6年7月17日〜 訴訟提起

岡山地方裁判所に訴訟を提起しました。

本件の争点

裁判では以下の4点が争われました。

  1. 争点①:本件運転行為は懲戒処分基準上の「酒気帯び」に該当するか
  2. 争点②:懲戒免職とした処分行政庁の判断に裁量権の逸脱・濫用があるか
  3. 争点③:弁明の機会付与や理由提示に手続上の違法があるか
  4. 争点④:国家賠償法上の違法および損害額

裁判所の判断

争点①「酒気帯び」該当性について ── 核心は「故意の有無」

裁判所は、懲戒処分の対象となる「酒気帯び」に該当するためには、原告に酒気帯び運転の故意(認識・認容)があったと認められることが必要だと判示しました。

その根拠として、道路交通法上の酒気帯び運転罪は、客観的要件(アルコール濃度の基準値超過)だけでなく、**主観的要件(故意)**も必要な犯罪であること、また地方公務員法上の懲戒処分は職員を道義的に非難する性質であることから、職員の主観的要件が充足される必要があると解しています。

客観的な数値の矛盾に注目

裁判所が特に重視したのは、2回の呼気検査の数値の不整合です。

  • 1回目(午前2時30分):0.05ミリグラム(基準値以下)
  • 2回目(午前8時30分):0.17ミリグラム(基準値超過)

飲酒から時間が経過するほどアルコールは分解されるのが通常であり、1回目で基準値以下だった数値が、その後追加飲酒なしに約6時間後の2回目で基準値を超えることは「不可解」であると裁判所は指摘。1回目の検査の測定精度に問題があった可能性も否定できないとしつつ、次のように判断しました。

1回目の検査で基準値を下回り、その後仮眠をとって6時間が経過した原告が「酒気を帯びていない」と認識したことはやむを得ない状況であった

また、原告自身は酒臭の自覚がなく、体のだるさや頭の重さといった自覚症状もなかったことを踏まえ、酒気帯び状態であることを認識・認容しながら運転したとは認められないと結論づけました。

判断の結論

原告に酒気帯び運転の故意があったとは認められず、本件規程上の「酒気帯び」運転をしたものとは認められない。

これにより、懲戒事由(非違行為)が存在しないにもかかわらず懲戒免職処分が行われたものとして、争点②・③の検討を経るまでもなく処分は違法であると判断されました。


争点④ 国家賠償法上の違法と損害額

処分行政庁(消防長)は、原告が不起訴処分となった事実や顛末書の内容から、「酒気帯び」運転の故意が認められない可能性を容易に認識できたにもかかわらず、漫然と違法な処分を行ったとして過失を認定しました。

慰謝料の算定については、以下の事情が考慮されています。

  • 約3年3か月にわたり消防士として勤務できず、給与等を受け取れなかった
  • 懲戒免職は社会的に極めて不名誉であり、実名報道により名誉が大きく損なわれた
  • 処分取消しにより一定程度は回復されるが、非違行為自体が認められないにもかかわらず最も重い処分を受けた点が特に重大

以上から、慰謝料として150万円(原告請求額300万円の半額)を認容しました。

判決のポイントまとめ

本判決には、公務員の懲戒処分を考える上で重要な判断が含まれています。

①「酒気帯び」には主観的要件(故意)が必要 懲戒処分基準上の「酒気帯び」に該当するためには、客観的なアルコール濃度の超過だけでなく、職員が酒気帯び状態であることを認識・認容していたことが求められます。

②呼気検査の数値だけで懲戒事由は認定できない 不起訴処分となった事実、2回の検査値の矛盾、飲酒後の経過時間、自覚症状の有無など、総合的な事実関係を踏まえて判断する必要があります。

③非違行為が認定されなければ加重事由の検討は不要 過去の処分歴や報道による社会的影響といった加重事由は、あくまで非違行為が存在することが前提です。懲戒事由がない場合は、加重事由の有無を検討するまでもなく処分は違法となります。

④慰謝料は処分の重大性に比例して判断される 非違行為が存在しないにもかかわらず懲戒免職という最も重い処分を受けた本件では、処分が「重すぎる」として取り消されるケースとは異なり、精神的苦痛が相当大きいと評価されました。

まとめ

本件は「酒気帯び運転」の疑いで逮捕・不起訴となった消防士に対して、行政が懲戒免職という最重の処分を下したものの、裁判所が故意の不存在を理由に処分を違法と認定した事案です。

呼気検査の数値が基準値を超えていたとしても、それだけで懲戒処分の対象となるわけではなく、処分を下す側には職員の認識・事情を丁寧に検討する義務があることが改めて示されました。

公務員の懲戒処分、特に飲酒運転関係の処分の適否を考える上で、重要な先例となる判決です。

本記事は公開された判決文(岡山地方裁判所 第2民事部)をもとに作成しています。      令和6(行ウ)8 懲戒処分取消等請求事件判決全文 令和8年2月25日 岡山地方裁判所

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