小2いじめを担任が放置、親5人と茅ヶ崎市に307万円賠償命令|横浜地裁が示した親の監督責任と家族の守り方

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いじめ訴訟親の監督責任国家賠償不登校横浜地裁

📅 令和8年(2026年)3月27日 | ⚖️ 横浜地方裁判所 第9民事部 | 📂 令和元年(ワ)第4179号 損害賠償請求事件

小学2年生の男の子が、同級生5人から約3か月にわたって馬乗りや蹴る・叩くといったいじめを受け、約2年半学校に行けなくなりました。担任は「少し度が過ぎている」と感じながら、管理職にも保護者にも伝えていませんでした。

横浜地裁は、加害児童の親5人と市(神奈川県茅ヶ崎市)が連帯して計約307万円を支払うよう命じました。

「子ども同士のこと」で済まされず、親と学校の両方に責任が及んだ判決です。請求額との差、認められなかった費用、そして家族として何をしておけばいいのかまで整理します。

📄 横浜地方裁判所判決全文(PDF)はこちら →

事件の概要:小2の3学期に何があったのか

舞台は茅ヶ崎市立の小学校、平成27年度(2015年度)の2年生のクラスです。判決によると、このクラスは夏休み明けから授業中の指示が通りにくくなり、休み時間のけんかも増えて、後期には補助員が配置されるほどの状態でした。

原告の男の子(以下、原告子)と同級生5人(判決では子A〜子E)は、当初はふざけ合う関係だったとされています。裁判所は、平成27年12月後半ごろを境に「ふざけ合い」から「一方的な攻撃」に変わったと線を引きました。

そこから翌年3月中旬まで、裁判所が認定した主な行為は次のとおりです。

⚠️ 裁判所が認定した主ないじめ行為(平成27年12月後半〜平成28年3月中旬)

  • 上に乗る、叩く、蹴る、あだ名でからかう行為が繰り返された
  • 子Aが馬乗りになり「お前は俺のおもちゃだ」と言った
  • 平成28年1月ごろ、子Aと子Eが髪を引っ張った
  • 2月の凧揚げの日、尿を漏らした原告子を転ばせて上に乗り、ズボンと下着をずらした
  • 動物が好きな原告子を「動物学者にはなれない」とからかった

発覚したのは平成28年3月19日。春休みに帰省した福井県の祖父母宅で、原告子が祖母に「学校でいじめられている」と打ち明けたのがきっかけでした。親が知ったのは、いじめが始まってから3か月近く後のことです。

4月18日から原告子は学校に行けなくなり、不登校は約2年半に及びました。気絶、腹痛、吐き気、悪夢、下痢や血便といった症状が続き、最終的には私立小学校へ転校しています。自分も子を持つ親として、祖母にしか言えなかった3か月間を想像すると胸が詰まります。

判決の結論:請求3622万円に対し認容は約307万円

原告側は、本人・父・母の3人で合計約3622万円を請求していました。結果は次のとおりです。

原告 請求額 認容額 内訳
本人(原告子) 2200万円 275万円 慰謝料250万円+弁護士費用25万円
父 1312万5542円 32万2150円 治療・カウンセリング費31万6150円+交通費2万円−共済給付4万3000円+弁護士費用2万9000円
母 110万円 0円 請求棄却

支払うのは加害児童の親5人と茅ヶ崎市の「連帯」です。連帯なので、原告側はどの被告にも全額を請求でき、被告同士の負担割合は後で内部で調整することになります。

これに令和元年11月9日から年5%の遅延損害金が付きます。提訴から判決まで約6年5か月かかっているため、本人分275万円だけでも単純計算で約88万円が上乗せされる計算です。一方で、訴訟費用は59分の54を原告側が負担することになりました。請求額の約8.5%しか認められなかった結果が、ここにも表れています。

争点ごとの判断:親・担任・時効はどう裁かれたか

「ふざけ合い」と「いじめ」の境目

裁判所は、12月後半より前の出来事については不法行為とはいえないと判断しました。原告子の側も他の児童を追いかけたり「嫌い」と言ったりしていた時期があり、お互いさまの関係だったと見たためです。

一方、12月後半以降は、5人が継続的に1人を一方的に攻撃したとして5人の行為全体を「共同不法行為」と認定しました。1つひとつの行為を切り分けず、まとめて評価した点がポイントです。

加害児童の親は「しつけはしていた」では免れない

小学2年生には、法的な責任を理解する能力(責任能力、民法712条)がないとされます。そのため子ども本人は賠償責任を負わず、代わりに親が民法714条の監督義務者として責任を負うことになります。

親の側は「通常のしつけはしていた」「学校から連絡がなく、予見できなかった」と反論しました。しかし裁判所は、監督義務を怠らなかったと認めるに足りる証拠がないとして退けています。714条では、親の側が「監督を怠らなかった」ことを立証しない限り責任を負う仕組みで、このハードルはかなり高いのが実情です。

なお、子Bの親子は発覚から8日後の3月27日に原告宅を訪れて謝罪しています。それでも裁判所は、謝罪で違法性が消えるわけではなく、金銭賠償が不要になるほど苦痛がなくなったともいえないと判断しました。

担任の「見て見ぬふり」に市の賠償責任

担任は5人の行為をたびたび目にし、「遊びとしてはやや一方的で少し度が過ぎている」と感じていました。それでも注意は十分でなく、管理職や同学年の教員と情報を共有せず、双方の保護者にも連絡しませんでした。

「これをいじめの兆候として捉え、」……「職務上の注意義務があったというべきであり」
——横浜地方裁判所 令和8年3月27日判決より(抜粋)

裁判所は、事実確認・指導・管理職への報告・保護者への連絡をしなかったことを職務上の注意義務違反とし、国家賠償法1条1項に基づいて市の責任を認めました。

担任は発覚後の調査で当初「一方的ないじめはなかった」と説明し、その後説明を変え、最終的には見て見ぬふりをしたことを認めています。担任は平成31年3月に懲戒処分を受けて依願退職しました。ただ、説明が二転三転したこと自体は「独立した誠実義務違反」とまではされず、この部分の原告側の主張は通りませんでした。

小2いじめで親5人と市が連帯して計約307万円の賠償責任を負った判決の構造(共同不法行為・民法714条・国家賠償法)と、認められたこと・認められなかったことを示す図解

PTSDは否定、それでも不登校と症状は賠償の対象

原告側は、いじめでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したと主張していました。初診から3日後にPTSDの診断書が作成されていましたが、裁判所は診断基準に基づく検査などが行われた形跡がないとして採用しませんでした。

DSM-5などの基準が求める「死や重傷の危険にさらされる出来事」も、本件の行為内容からは認められないとされています。ただし、約2年半の不登校や身体・精神の症状は、いじめと相当因果関係がある損害として認められました。病名が付くかどうかと、賠償されるかどうかは別の問題だということです。

「3年の時効」は完成していなかった

加害児童の親側は、平成28年5月ごろには損害も加害者もわかっていたはずで、3年の消滅時効が完成していると主張しました。提訴は令和元年10月11日で、発覚から3年半以上経っています。

裁判所は、提訴の3年前の時点では原告子の症状がまだ軽快しておらず、賠償請求が事実上可能な程度に損害を知っていたとはいえないとして、時効の完成を認めませんでした。親としては救われた判断ですが、時効をめぐって争われる余地があること自体がリスクだと受け止めておくべきでしょう。

認められなかった費用:私立の学費や車両購入費は0円

父の請求約1313万円のうち、認められたのは約32万円でした。損をしたくない立場から見ると、何が通らなかったのかは知っておく価値があります。

⚠️ 0円とされた主な費目と理由

  • 私立小学校の学費:公立への転校で足り、私立転校の必要性が認められない
  • 母の治療費・父母の固有の慰謝料:いじめとの相当因果関係がない、または認められない
  • 防犯費用、イベント参加費、車両購入費、新聞代・コピー代など:通常生じる損害や予見できた損害とはいえない
  • 第三者委員会への意見書作成の弁護士費用、宿泊費・駐車場代など交通費の残り:同上

また、治療費のうち4万3000円は、学校の災害共済給付(日本スポーツ振興センター)から支払われていたため差し引かれました(損益相殺)。逆に言えば、学校でのケガや心身の不調には共済給付が使える場合があるということでもあります。

親側からは「原告の親も気づくべきだった」という過失相殺の主張も出ましたが、学校からの情報提供がなく、子どもからも聞いていなかった以上、親の落ち度とはいえないとして否定されています。

家族を守るために:被害側・加害側どちらの親もできる備え

この判決は、被害を受けた家庭だけの話ではありません。わが子が加害側に回れば、親が数百万円単位の賠償を連帯して負う可能性があることを示しています。

わが子が被害を受けたかもしれないとき

01

日付入りで記録する

子どもの言葉、体調の変化、通院日、学校とのやり取りをメモに残す。本件でも日付ごとの事実認定が結論を左右しました。

02

学校には記録が残る形で

担任だけでなく管理職にも伝え、可能ならメールや書面で。誰がいつ知ったかが、学校の責任を問う鍵になります。

03

「重大事態」の調査を求める

いじめで相当期間欠席している場合などは、いじめ防止対策推進法28条の「重大事態」として調査の対象になります。

04

領収書と時効に注意

治療費・交通費の領収書は保管。損害賠償の時効は原則3年(生命・身体の侵害は5年)なので早めに弁護士へ相談を。

わが子が加害側になったら:保険の確認を

親が負う賠償は、火災保険・自動車保険・クレジットカードなどに付帯する「個人賠償責任保険」で補償される場合があります。補償範囲や対象となる家族の範囲は契約ごとに異なるため、一度家族で証券を確認しておくと安心です。

そしてもう一つは、親子の会話です。「ふざけていただけ」が相手にとってどう映るのか。今回の判決が線を引いたのは、まさに「ふざけ合い」が「一方的な攻撃」に変わった瞬間でした。

わが子がいじめ被害を受けたときの記録・学校への連絡・重大事態調査・時効と、加害側になったときの個人賠償責任保険の確認、相談先電話番号をまとめた図解

📞 困ったときの相談先

  • 24時間子供SOSダイヤル(文部科学省):0120-0-78310
  • 子どもの人権110番(法務省):0120-007-110
  • 法テラス(弁護士費用の立替え制度など):0570-078374

📌 この判決のポイントまとめ

  • 小2の同級生5人による約3か月のいじめを共同不法行為と認定した。
  • 責任能力のない子に代わり、親5人が民法714条の監督義務者責任を負った。
  • 兆候を見ながら報告・連絡をしなかった担任の注意義務違反で、茅ヶ崎市も国家賠償責任を負った。
  • 認容額は本人275万円・父32万2150円の計約307万円(請求約3622万円)。母の請求は棄却。
  • PTSDは否定されたが、約2年半の不登校と症状は損害と認められ、時効の主張も退けられた。

まとめ:「子ども同士のこと」では済まされない時代

この判決で印象に残るのは、責任が子ども本人ではなく、親と学校という「大人」に向けられた点です。加害児童の親は「普通にしつけていた」と言っても免れず、担任は「いじめとまでは思わなかった」と言っても免れませんでした。

一方で、請求額の1割にも届かない認容額や、私立の学費・母の治療費が認められなかった点は、裁判で取り戻せるものには限りがあるという現実も示しています。6年半近い訴訟の負担を思うと、なおさらです。

だからこそ、日頃から子どもの変化に気づける関係をつくり、何かあれば記録を残して早めに学校と専門家につなぐこと。そして加害側になる可能性も含めて保険を確認しておくこと。家族を守るための備えは、そう難しいものではありません。

よくある質問(FAQ)

Q. 小学生の子どもがいじめをしたら、親が賠償しなければならないのですか?

小学校低学年の子は一般に責任能力がないとされ、その場合は親が民法714条の監督義務者として責任を負います。親が「監督を怠らなかった」ことを証明できれば免れますが、本件では「通常のしつけをしていた」という反論は認められませんでした。

Q. 公立学校の先生がいじめを放置したら、誰に賠償を請求できますか?

公立学校の教員の職務上の違法行為については、国家賠償法1条1項により自治体(本件では市)が賠償責任を負います。教員個人に直接請求するのではなく、設置者である自治体が相手方になります。

Q. 転校した私立学校の学費は請求できますか?

本件では、公立への転校で足りたとして私立の学費は認められませんでした。事情によって判断は変わり得ますが、全額が戻ると考えないほうが安全です。

Q. いじめの損害賠償に時効はありますか?

不法行為の損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から原則3年(生命・身体の侵害は5年)で時効になります。本件では症状が続いていたことから時効は完成していないとされましたが、争点になり得るため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

出典・参考資料

【免責事項】本記事は公開されている判決文等をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案についての法的助言ではありません。具体的なご相談は弁護士等の専門家にお問い合わせください。判決はその後の上訴等により変更される可能性があります。また、未成年者が関わる事案であるため、当事者を特定する情報は掲載していません。

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