📅 令和8年(2026年)10月23日 | ⚖️ 最高裁判所 第三小法廷 | 📂 令和7年(行ヒ)第310号ほか計4件
2013年から3年かけて行われた生活保護費の引き下げをめぐり、最高裁第三小法廷は2026年10月23日、熊本・佐賀・兵庫・秋田の4つの訴訟で「引き下げは違法」として減額決定をすべて取り消しました。
決め手は、物価の下落率だけを根拠に基準生活費を一律4.78%削った「デフレ調整」。2025年6月の最高裁判決に続き、裁判官5人全員一致の判断です。
何が違法とされたのか、そして親族が当時保護を受けていた家族が確認しておきたい「追加給付」まで、判決文をもとに整理します。
最高裁が4訴訟で生活保護の減額決定を取り消した
今回判決が出たのは、熊本県、佐賀県、兵庫県、秋田市で生活扶助を受けていた人たちが、それぞれの福祉事務所長による「保護変更決定(減額)」の取り消しを求めた4つの訴訟です。
4件とも、高裁では受給者側が敗訴していました。最高裁はそれをすべてひっくり返し、受給者側の勝訴が確定しました。
| 訴訟 | 原審(高裁) | 最高裁の結論 |
|---|---|---|
| 熊本 令和7(行ヒ)310 |
福岡高裁が一審(熊本地裁の取り消し判決)を覆し、請求棄却 | 高裁判決を破棄。一審の取り消し判決が「正当」として確定 |
| 佐賀 令和7(行ヒ)205 |
福岡高裁で請求棄却 | 破棄自判。減額決定を取り消し |
| 兵庫 令和6(行ヒ)386 |
大阪高裁で請求棄却 | 破棄自判。減額決定を取り消し |
| 秋田 令和6(行ヒ)339 |
仙台高裁秋田支部で請求棄却 | 破棄自判。減額決定を取り消し |
4件の判決理由は、地域や経過の記載を除けばほぼ同じ文面です。以下では熊本訴訟の判決文を中心に読み解きます。
2013〜2015年の生活保護引き下げとは――「ゆがみ調整」と「デフレ調整」
厚生労働大臣は2013年から2015年にかけ、3年かけて段階的に生活扶助基準を改定しました。中身は大きく2つで、減額幅の上限は10%とされました。
01
ゆがみ調整
年齢・世帯人数・地域による基準額の差を、一般低所得世帯の消費の差に合わせて見直すもの。専門家の検証結果の「2分の1」だけを反映しました。
02
デフレ調整
2008年から2011年にかけての物価下落率(生活扶助で買う品目に絞って計算)4.78%を、基準生活費に一律で反映させて減額したもの。
生活扶助基準は1984年度から、一般国民の「消費」の動向に合わせる「水準均衡方式」で改定されてきました。ところがデフレ調整は、消費ではなく「物価」だけを物差しにした初めての改定でした。判決も「本件改定前において、物価変動率のみを直接の指標として生活扶助基準の改定がされたことはなかった」と指摘しています。
なぜ違法? 物価だけで一律4.78%減額した「デフレ調整」の問題点
最高裁はまず、生活保護の基準づくりには厚生労働大臣に専門技術的・政策的な裁量があることを認めました。そのうえで、判断の過程や手続きに「過誤、欠落」がないか、統計や専門的知見と整合しているかを審査するという枠組みを示しています。
「不均衡があった」という国の判断自体は否定していない
ここは見落とされがちな点です。2007年の検討会報告書で、基準額が一般低所得世帯の支出よりやや高いと指摘されていたこと、リーマンショック後に物価・賃金・家計消費がいずれも下がったのに2008〜2012年度は基準が据え置かれていたことから、「保護基準と国民の生活水準に不均衡が生じていた」という大臣の判断は不合理とはいえないとしました。
問題は「物価だけ」を物差しにしたこと
違法とされたのは、その不均衡を直すための「物差し」の選び方でした。生活保護法8条2項がいう「最低限度の生活の需要を満たす」とは、生活扶助では最低限度の「消費水準」を保障することだと理解されてきた、と判決は指摘します。
——最高裁判所第三小法廷 令和8年10月23日判決より
国は「2003年の専門委員会の中間取りまとめで、消費者物価指数を指標の一つとして用いることも考えられるとされていた」と説明しました。しかし判決は、それは検討の必要性に触れた「例示」にすぎないと退けています。
そして、物価だけを直接の指標にすることについて、専門家による基準部会などの審議検討を経ていなかったことを重く見て、専門的知見との整合性を欠き、判断の過程と手続に「過誤、欠落」があったと結論づけました。
「後の検証で均衡していた」も通らなかった
国側は、2017年の検証で改定後の基準額が一般低所得世帯の支出とおおむね均衡していたことも挙げていました。最高裁はこれについても、次のように述べて退けています。
——最高裁判所第三小法廷 令和8年10月23日判決より
結果よければすべてよし、とはならない。手続きの正しさを重視する姿勢がはっきり表れた一文だと思います。

⚠️ 今回の判決が「判断していないこと」
- ゆがみ調整(2分の1処理)が適法かどうかは、今回の4判決では判断されていません。デフレ調整の違法だけで結論が出たためです。
- 4件はいずれも減額決定の取り消しを求める訴訟で、国家賠償(慰謝料)は争点になっていません。
- 2025年11月に国が示した「再改定」と差額支給のやり方が適法かどうかも、今回の判決の対象外です。
2025年6月の最高裁判決から「再び違法」まで
2013年〜2015年
生活扶助基準を3年かけて引き下げ
ゆがみ調整とデフレ調整(一律4.78%減)。減額幅の上限は10%。全国で受給者が取り消し訴訟を起こしました。
2025年6月27日
✅ 最高裁が初めて「違法」と判断
大阪・愛知の訴訟で、デフレ調整を違法として減額決定を取り消しました。
2025年11月〜2026年4月
⚠️ 国は「再改定」して差額を追加給付
デフレ調整(−4.78%)に代えて「高さ調整」(−2.49%)で計算し直し、差額を支給する方針。原告側は「再減額だ」と反発しています。
2026年10月23日
✅ 4訴訟で再び「違法」、全員一致
熊本・佐賀・兵庫・秋田の減額決定を取り消し。判断の枠組みは2025年判決と同じ流れです。
国の追加給付については、2025年度補正予算で1475億円が計上され、そのうち保護費の追加給付が1055億円とされました。原告には減額分に年5%の利息相当を上乗せした特別給付、原告以外は「高さ調整」での再計算による差額という二本立てで、原告側は「原告とそれ以外で差をつけるのは分断だ」と批判しています。
親が受給していたら要確認――追加給付は「自分で申請」しないと受け取れない
この判決は、受給者本人だけの話ではありません。親やきょうだいが2013年から2018年ごろに生活保護を受けていた、という家庭は決して少なくないはずです。
報道によると、国の追加給付の対象はおよそ300万世帯。2013年8月から2018年9月までに1か月でも生活扶助を受けていれば、対象になる可能性が高いとされています。ただし、今は保護を受けていない元受給者(約136万世帯)は、自分で申請しなければ1円も振り込まれません。
⚠️ 受け取り漏れが起きやすいケース
- 保護をやめた後に引っ越し、自治体が今の住所を把握していない
- 本人が高齢で、案内や制度の存在を知らない
- 当時の受給者がすでに亡くなっている(亡くなった元受給者は対象外とされています)

窓口は、当時保護を受けていた自治体の福祉事務所です。厚生労働省は2026年3月30日に専用の電話相談センターを開設し、4月から順次、手続きと支払いが始まっています。親の生活のことは聞きにくいものですが、「最高裁のニュースを見たんだけど」と切り出すきっかけにはなるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. 2025年の判決と今回の判決は何が違うのですか?
2025年6月は大阪・愛知の訴訟、今回は熊本・佐賀・兵庫・秋田の訴訟です。どちらも「物価だけを指標に一律4.78%減額したデフレ調整が違法」という結論で、最高裁が同じ判断を重ねたことになります。
Q. 引き下げ前の金額との差額が全額戻ってくるのですか?
判決が取り消したのは、原告それぞれへの減額決定です。原告以外の受給者については、国が「高さ調整(−2.49%)」で計算し直した差額を支給する方針で、引き下げ前との差額満額ではありません。この再計算が適法かは今回の判決では判断されておらず、原告側は審査請求や再提訴を検討しているとされています。
Q. 生活保護を受けていない世帯にも関係ありますか?
生活扶助基準は、他の制度の基準にも連動しているとされます(報道では47制度)。また、親族が過去に受給していた場合は、追加給付の申請を手伝う場面があるかもしれません。
Q. ゆがみ調整は違法ではないのですか?
今回の4判決は、デフレ調整が違法であることだけで結論を出しており、ゆがみ調整(2分の1処理)については判断していません。
📌 この判決のポイントまとめ
- 最高裁第三小法廷は2026年10月23日、熊本・佐賀・兵庫・秋田の4訴訟で生活保護の減額決定を取り消し、受給者側の勝訴が確定した。
- 違法とされたのは、物価下落率だけを指標に基準生活費を一律4.78%減らした「デフレ調整」。専門家の審議を経ておらず、専門的知見との整合性を欠いた。
- 「不均衡があった」という国の認識自体は否定されず、後の検証で均衡していたことも違法の評価を左右しなかった。
- ゆがみ調整や国の再改定の適法性は判断されていない。
- 国の追加給付は、今は保護を受けていない元受給者は自分で申請が必要。家族で確認を。
まとめ
最高裁は、生活保護の水準を決める国の裁量を広く認めつつ、「どう決めたか」の過程にははっきりと線を引きました。不均衡を直す必要があったとしても、これまでと違う物差しを、専門家の検討もないまま持ち込むことは許されない、という判断です。2度目の全員一致の判決で、この点はもう揺るがないと言ってよいでしょう。
一方で、国の追加給付をめぐる争いはまだ続いています。親族が当時受給していた家庭は、申請しなければ受け取れないお金がないか、一度確認してみてください。制度は「知っている人」を守るようにできているのだと、あらためて感じます。
出典・参考資料
- 最高裁判所第三小法廷 令和8年10月23日判決(令和7年(行ヒ)第310号・熊本)全文PDF
- 同日判決(令和7年(行ヒ)第205号・佐賀)全文PDF
- 同日判決(令和6年(行ヒ)第386号・兵庫)全文PDF
- 同日判決(令和6年(行ヒ)第339号・秋田)全文PDF
- 厚生労働省 社会保障審議会(生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会)
- 弁護士JPニュース(2026年9月13日)追加給付の対象と申請について
- s-newscommons(2025年12月11日)厚労省の差額支給方針と原告らの反応
【免責事項】本記事は公開されている判決文や報道等をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の事案についての法的助言ではありません。追加給付の対象や手続きは、お住まいの(当時の)自治体の福祉事務所でご確認ください。記事の内容は執筆時点の情報にもとづいています。


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