📅 令和8年(2026年)7月29日 | ⚖️ 大阪高等裁判所第2民事部 | 📂 令和7年(ネ)第2273号・令和8年(ネ)第676号
大阪府泉南市議会議員・添田詩織氏がX(旧Twitter)に投稿した内容をめぐり、名誉毀損やプライバシー・肖像権の侵害を訴えられていた裁判の控訴審判決が、大阪高等裁判所で言い渡された。結果は一審の55万円から88万円へと賠償額が増額される、原告側の実質的な勝訴だった。
一方で、原告側が強く求めていた「人種差別的投稿である」との認定は、控訴審でも退けられている。判決が何を認め、何を認めなかったのか、その中身を見ていく。
事件の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被告(被控訴人) | 添田詩織氏(大阪府泉南市議会議員、数万人規模のフォロワーを持つXユーザー) |
| 原告(控訴人) | 訴外会社の財務責任者。朝鮮学校無償化運動に参加し、大阪朝鮮高級学校オモニ会(保護者会)の元役員を務めていた人物(判決文中では匿名) |
| 請求内容 | 民法709条に基づく慰謝料等550万円および遅延損害金、投稿の削除 |
| 一審(大阪地方裁判所) | 55万円および遅延損害金の支払い、投稿1件の削除を認容 |
| 控訴審(大阪高等裁判所) | 88万円および遅延損害金(年3%、令和6年2月2日起算)の支払いを命令。訴訟費用は第1・2審を通じて20分の13を控訴人(原告)、20分の7を被控訴人(被告)の負担 |
事件の経緯——投稿はどのように行われたか
事案の概要として、判決文は次のように事件を要約している。
——大阪高等裁判所判決より
添田氏は、原告の複数の写真を並べてXに掲載し、「同一人物で間違いなさそうですね」といった趣旨の投稿を行った。これにより、原告の社会的な立場や活動歴が公開され、親族が北朝鮮のスパイとされたとする内容と関連付けられる形で紹介されたという。判決は、この一連の投稿によって原告に対する不利益な印象が形成されたと認定している。
原告は朝鮮学校の授業料無償化を求める運動に参加し、大阪朝鮮高級学校の保護者会(オモニ会)で役員を務めていた人物だった。政治的な立場や活動が公然と晒される形になったことが、名誉毀損・プライバシー侵害の主張の中心的な根拠となっている。
一審から控訴審へ——賠償額はどう変わったか
第一審(大阪地方裁判所)
✅ 一部勝訴——55万円の支払いと投稿1件の削除を認容
名誉毀損・プライバシー侵害の一部を認めたが、認容額・削除の範囲は原告の請求(550万円)を大きく下回るものだった。
控訴審(大阪高等裁判所・最終)
✅ 原告の主張をさらに支持——賠償額を88万円に増額
名誉毀損・プライバシー・肖像権の侵害を改めて認定し、被告側の主張を排斥。一方で人種差別性の主張は一審に続き退けられた。
争点1:名誉毀損・プライバシー・肖像権の侵害は認定
控訴審は、添田氏の投稿について次のように判断した。
——大阪高等裁判所判決より
複数の写真を並べて「同一人物で間違いなさそうですね」と投稿する行為が、原告の社会的同一性と活動歴を第三者に開示し、北朝鮮スパイとされた親族と結びつける不利益な印象を生じさせたという点が、判断の核心にある。政治家としての正当な言論活動だという被告側の主張は、控訴審で「全て排斥」された。
⚠️ 判決が指摘したリスク
- 数万人のフォロワーを持つアカウントによる発信は、単なる言論にとどまらず対象者の生活に直接影響しうる
- インターネット上だけでなく、現実の社会生活の場面で「一定の政治的思想を有する者による攻撃を誘発する危険」があると認定された
争点2:人種差別・ヘイトスピーチの主張は退けられる
一方で、原告側が控訴審の中心的な主張の一つとして掲げていた「投稿は人種差別(ヘイトスピーチ)にあたる」という訴えは、一審に続いて退けられた。判決は次のように述べている。
——大阪高等裁判所判決より
裁判所は、投稿の文言に特定の民族・人種を名指しする表現が含まれていないことや、掲載された情報がすでにインターネット上で公開されていたものであることを理由に、人種差別性を否定した。
原告側の弁護団はこの判断に強く反発している。控訴審では「人種に基づく標的選定があったこと」「いわゆる“犬笛”と“ドキシング”による人種差別的効果」「SNS上での特定・拡散による甚大な損害」の3点を柱に主張していたが、判決はこれについて明確な理由を示さないまま退けたとして、原告が代表を務める企業のプレスリリースは「人種差別性に関する判断は不十分である」「理由を一切述べることなく、人種差別性を否定したことについて、本判決には重大な課題が残る」とのコメントを公表している。
損害賠償の内訳
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 慰謝料 | 80万円 |
| 弁護士費用相当額 | 8万円 |
| 合計 | 88万円(+年3%の遅延損害金、令和6年2月2日起算) |
| 訴訟費用の負担 | 第1・2審を通じて20分の13を原告(控訴人)、20分の7を被告(被控訴人)の負担 |
判決は、投稿が削除されるまでの期間の短さや、争点となった投稿の一部が一審判決後になってようやく削除された経緯についても「過小評価することは相当でない」としており、これらの事情が一審からの増額判断に影響したとみられる。とはいえ550万円という原告の請求額からすれば、認容額はなお1割強にとどまっている。
📌 この判決のポイントまとめ
- 大阪高裁は、市議のSNS投稿による名誉毀損・プライバシー侵害・肖像権侵害を認定し、賠償額を一審の55万円から88万円へ増額した。
- 政治家としての正当な言論活動だという被告側の主張は、控訴審で退けられた。
- 一方、原告側が強く求めた「人種差別・ヘイトスピーチ」の認定は、一審・控訴審いずれでも否定された。
- 原告側弁護団はこの人種差別性の判断について、理由が示されていないとして不満を表明しており、なお論争が残る判決といえる。
出典・参考資料
- 大阪高等裁判所 令和8年7月29日判決(令和7年(ネ)第2273号・令和8年(ネ)第676号)判決全文(PDF・裁判所公式サイト)
- 株式会社TryHard Japan プレスリリース「大阪高裁判決に対する弁護団声明を踏まえた当社の見解」(PR TIMES)
【免責事項】本記事は上記の公開された判決文および関連プレスリリースをもとに作成しています。一審(大阪地方裁判所)の具体的な言渡日・事件番号については、控訴審判決文中に明記がなく、独自に確認できる報道も一部アクセス制限(robots.txt等)により参照できなかったため、本記事では控訴審判決文が引用する「原判決の内容(55万円・投稿1件削除)」の範囲にとどめて記載しています。原告の氏名・所属企業名等、判決文が匿名としている情報については、本記事でも匿名のまま扱っています。正確な情報は必ず一次資料(判決全文)をご確認ください。



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