📅 控訴審判決(原審:令和8年2月25日 岡山地方裁判所) | ⚖️ 広島高等裁判所岡山支部第2部(裁判長・絹川泰毅) | 📂 事件名:懲戒処分取消等請求控訴事件
高梁市消防署の消防副士長だった男性が、酒気帯び運転を理由とした懲戒免職処分の取消しと慰謝料300万円を求めた訴訟で、岡山地方裁判所は処分を取り消し慰謝料150万円の支払いを命じていました。しかし高梁市が控訴した結果、広島高等裁判所岡山支部は一審判決を取り消し、元消防士側の請求をすべて棄却するという逆転判決を言い渡しました。
一審が否定した「酒気帯び運転の故意」について、控訴審はなぜ一転して認定したのか。判決文に記された具体的な供述内容とともに詳しく見ていきます。
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本記事は、以下の記事で取り上げた岡山地裁判決の控訴審(上訴審)にあたります。事件の詳しい経緯や一審の判断理由は、あわせてご覧ください。
【岡山地裁判決】高梁市消防士の懲戒免職処分取消訴訟|酒気帯び運転の「故意なし」で処分が違法と認定 →
事件の基本情報
| 項目 | |
|---|---|
| 裁判所 | 広島高等裁判所岡山支部 第2部 |
| 裁判官 | 裁判長裁判官・絹川泰毅、裁判官・國屋昭子、裁判官・寺村隼人 |
| 控訴人 | 高梁市(一審被告) |
| 被控訴人 | 高梁市消防署 元消防副士長(男性、一審原告) |
| 原審 | 岡山地方裁判所(令和8年2月25日判決・処分取消+慰謝料150万円認容) |
| 本判決の主文 | 原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却。訴訟費用は第1・2審とも被控訴人負担 |
なお、判決文自体には言渡年月日や事件番号を明示する記載が見当たらず、裁判所公式サイトで公開されている全文PDFにも記載がありません。本記事では確認できた範囲の情報のみを掲載しています。
控訴に至る経緯
令和8年2月、岡山地裁は「酒気帯び運転をしたとの認識(故意)があったとは認められない」として懲戒免職処分を取り消し、高梁市に慰謝料150万円の支払いを命じました。この判断を不服として、高梁市側が広島高等裁判所岡山支部に控訴。舞台は「故意の有無」という一点に絞られたまま、控訴審へと持ち越されることになりました。
事件の経緯と供述内容
基本的な事実経過は一審記事で紹介した内容と重なりますが、控訴審判決には一審判決よりも詳しい供述のやり取りが記録されています。ここでは判決文に直接引用されている発言を中心に再構成します。
令和4年8月10日夜〜11日未明 飲酒とトラブル
被控訴人は友人Aと岡山市内の居酒屋でビール中ジョッキ約3杯、相席バーで果実酒約2杯、さらにナイトクラブでカクテルやシャンパンを飲むなど、午後9時頃から午前1時30分頃まで断続的に飲酒を重ねました。ナイトクラブを出た直後、3人組の若者に因縁をつけられて言い争いになり、被控訴人は相手に対して「人を殴ったりすると逮捕される」と告げた上で警察に通報しています。
——被控訴人が言い争いの相手に告げた発言。判決文に引用
午前2時30分 1回目の呼気検査
臨場した警察官による1回目の呼気検査では、アルコール濃度は呼気1リットルあたり0.05ミリグラムと、酒気帯び運転の基準値(0.15ミリグラム)を大きく下回る数値でした。被控訴人はその後、友人とネットカフェで仮眠を取っています。
午前8時頃〜 運転と2回目の呼気検査
午前8時頃に起床した被控訴人は自動車を運転して岡山中央警察署に向かい、午前8時30分頃に到着(本件運転行為)。前夜に対応した警察官から「まだお酒の臭いがせん?」「(お酒が)まだ残っとるんじゃないん?」と指摘され、2回目の呼気検査を受けることになりました。結果は呼気1リットルあたり0.17ミリグラムと、基準値を超える数値でした。
——警察署到着時、前夜対応した警察官が被控訴人に発した言葉。判決文に引用
被控訴人は道路交通法違反(酒気帯び運転)の容疑で逮捕されましたが、同月26日に嫌疑不十分で不起訴となり釈放されています。
8月29日〜 顛末書の提出と供述の変遷
8月29日に提出された最初の顛末書で、被控訴人は飲酒から約7時間が経過していたことから「お酒が抜けていると思った」という趣旨の説明をしていました。ところが9月28日、B消防長との約40分間の面談を経て提出した2通目の顛末書では、説明の内容が「お腹の辺りが若干気持ち悪いという気持ちはありながらも運転して行くことにした」という表現に変化しています。控訴審判決は、この供述の変遷そのものを重要な事実として取り上げました。
「お腹の辺りが若干気持ち悪いという気持ちはありながらも運転して行くことにした」(9月28日付顛末書)
——被控訴人自身の説明。判決文に引用
11月8日〜18日 免許停止処分と弁明の機会
11月8日、被控訴人は運転免許の効力を90日間停止する行政処分を受け、翌9日に顛末書を提出しました。さらに11月18日には高梁市総務部との約50分間の面談が行われています。この場で被控訴人は、供述内容を変更した理由について、逮捕当初「警察官から少しでも認めた方向の供述にすれば勾留期間が短くなると諭された」ためだったと説明し、あわせて免許停止処分そのものにも納得していない旨を述べました。
11月30日 懲戒免職処分
高梁市消防長は、市民の生命と安全を守るべき消防職でありながら酒気帯び運転をしたこと、2度目の逮捕であったこと、報道と市長謝罪により消防行政への信頼が大きく揺らいだことなどを理由に、被控訴人を懲戒免職処分としました。過去5度の交通違反歴と2度の懲戒処分歴も、加重事由として考慮されています。
本件の争点
01
「酒気帯び」該当性
本件運転行為が懲戒処分基準上の「酒気帯び運転」に該当するか(故意の有無)
02
裁量権の逸脱・濫用
懲戒免職という最も重い処分を選んだことが、処分行政庁の裁量権の範囲内か
03
手続上の違法性
弁明の機会の付与や処分理由の提示に、手続上の不備がなかったか
04
国家賠償請求
処分行政庁に国家賠償法上の違法・過失が認められるか、慰謝料額は妥当か
控訴審裁判所の判断
争点① 「酒気帯び」の故意 ── 一審との分かれ目
控訴審も、懲戒処分の対象となる「酒気帯び」に該当するには故意が必要という一審の法解釈自体は踏襲しました。ただしその中身については、「身体にアルコールを保有していることの具体的な数値まで認識している必要はなく、アルコールを保有しながら運転することの認識があれば足りる」と、一審よりもやや緩やかな基準を示しています。
事実認定の面でも判断が分かれました。一審は午前2時30分の0.05ミリグラムという数値を前提に、「そこから6時間経過していれば酒気が抜けたと考えるのもやむを得ない」と評価しましたが、控訴審はこの1回目の検査結果そのものの信用性に疑問を投げかけています。多量の飲酒をしていたこと、警察官自身が飲酒後の供述の信憑性に懐疑的な発言をしていたこと、午前8時30分の時点でもなお酒の臭いを指摘されていたことなどを踏まえ、控訴審は「午前8時30分の0.17ミリグラムという数値こそ自然なものというべきである」と判断しました。
さらに、被控訴人が過去にビール1500ミリリットルを飲んだ際は10時間程度間隔を空けて運転していたという実際の経験があったことも重視されました。今回は多量飲酒の終了から本件運転行為までわずか約7時間しか経っていません。この点について、控訴審は次のように結論づけています。
——広島高等裁判所岡山支部判決より
被控訴人側の「1回目の検査で0.05ミリグラムだったから酒気が抜けたと判断した」という反論についても、控訴審は「不合理とまではいえない」としつつ、多量に飲酒した事実と過去の経験に照らせば「アルコール濃度が基準値以上にはならないだろうと安易に判断した軽率な行為」にすぎないと評価し、退けています。
争点② 懲戒免職に裁量権の逸脱・濫用はあったか
懲戒処分の基準上、酒気帯び運転で人身・物損の被害がない場合は停職または減給が原則です。しかし控訴審は、被控訴人が実際に逮捕・勾留され、運転免許停止処分まで受けている点を「情状は決して軽くない」と評価。市民の生命・安全を守る消防職としての職責と、飲酒運転の害悪を熟知すべき立場にあったことを踏まえ、事案は重大だったと判断しました。
加重事由についても、「非違行為が公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき」(報道・市長謝罪による消防行政への信用低下)と、「過去に類似の非違行為で懲戒処分を受けたことがあるとき」(過去の交通違反5件・懲戒処分2件)のいずれにも該当すると認定。被控訴人側は「過去の違反は3年以上前で無関係」と主張しましたが、控訴審は「類似の」は「同種の」より広い概念であり、交通法規違反という同一カテゴリーであれば要件を満たすとして退けています。過去に上司がバインダーで部下の頭を叩いた事案との処分比較についても、「非違行為の態様が全く異なり比較の対象にならない」としました。
これらを総合し、控訴審は懲戒免職という処分が「社会観念上著しく妥当性を欠く」とまではいえず、裁量権の逸脱・濫用はなかったと結論づけています。
争点③ 弁明の機会・理由提示に手続違法はあったか
公務員に対する懲戒処分には行政手続法14条の適用がなく、地方公務員法49条1項が定める処分説明書の交付は審査請求の便宜のための制度であって、処分の効力要件そのものではないと解釈されました。本件の処分説明書は処分の事実と根拠法令を示しており、これで足りるとされています。
弁明の機会についても、被控訴人は9月28日(約40分)と11月18日(約50分)の2度にわたり面談を受け、計3通の顛末書を提出していました。その中で1回目の検査値が0.05ミリグラムであったこと、飲酒から約7時間が経過していたこと、「酒が抜けたと思った」という認識などが十分に説明されていたと認定され、「一方的に謝罪を促す質問ばかりだった」という被控訴人側の主張も退けられています。
争点④ 国家賠償請求
争点①〜③のとおり本件処分そのものが違法でないと判断された以上、処分行政庁の行為に国家賠償法上の違法はなく、慰謝料等の損害賠償請求にも理由がないとされました。一審が認めた慰謝料150万円は、控訴審によって取り消されています。
一審と控訴審、判断はどう分かれたか
第一審(岡山地方裁判所)
✅ 消防士側勝訴——懲戒免職処分を取消し、慰謝料150万円
酒気帯び運転の故意(認識・認容)は認められないとして、懲戒事由なし・処分は違法と判断。
控訴審(広島高等裁判所岡山支部)
❌ 消防士側敗訴——原判決取消し、請求をいずれも棄却
多量飲酒から約7時間という間隔と過去の飲酒経験から「未必の故意」を認定。懲戒免職の裁量権逸脱・手続違法もいずれも否定。
本記事執筆時点(2026年9月)で本判決に対するさらなる上告の有無は確認できていません。動きがあれば追記します。
📌 この判決のポイントまとめ
- 「酒気帯び」の故意は、数値までの認識ではなく「アルコールを保有しながら運転することの認識」があれば足りると、一審より緩やかな基準で判断された。
- 1回目の呼気検査(0.05mg)より、2回目の検査(0.17mg)の方が実態に近いと評価され、多量飲酒からわずか約7時間での運転は「未必の故意」に当たるとされた。
- 供述の変遷(「酒が抜けていると思った」→「気持ち悪さを感じながらも運転した」)も、故意を裏付ける事情として考慮された。
- 過去の交通違反歴・懲戒歴を加重事由とすることも是認され、懲戒免職の選択に裁量権の逸脱・濫用はないとされた。
- 結果、一審が認めた慰謝料150万円の支払命令は取り消され、元消防士側の請求はすべて棄却された。
まとめ
同じ判決文の事実関係から出発しながら、一審と控訴審で結論が真逆になったという点で、本件はかなり異例な事案です。争点は終始「故意」の一点に集約されていましたが、控訴審は1回目の検査値そのものの信用性に踏み込み、被控訴人の過去の飲酒習慣という間接事実を積み上げることで、一審とは異なる心証に至っています。
不起訴になった刑事事件であっても、懲戒処分の場面では別の証明基準・評価がなされうることを改めて示した判決とも言えるでしょう。個人的には、供述の変遷を「警察官に諭されたから」と説明した部分がどこまで裁判所に採用されたのか気になるところですが、判決文を読む限り、控訴審はその説明よりも客観的な飲酒量・時間経過を重く見たようです。
公務員の飲酒運転に対する懲戒処分の適否は、今後も同種の事案で争われることが予想されます。呼気検査の数値だけでなく、飲酒量や経過時間、当人の供述の変遷までが総合的に審理の対象となりうる、という点で実務上の参考価値が高い判決です。
出典・参考資料
本記事は、裁判所ウェブサイトで公開されている控訴審判決文をもとに作成しています。
【免責事項】本記事は公開されている判決文をもとに、事件の経緯や裁判所の判断を分かりやすく解説することを目的として作成したものであり、法的助言を目的とするものではありません。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、判決文中の言渡日・事件番号の記載が確認できなかった箇所については、その旨を明記しています。内容の正確性には配慮していますが、最新の情報や正式な内容については必ず一次資料(裁判所ウェブサイト)をご確認ください。



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