【厚生労働省発表】職場のいじめ・嫌がらせ相談が14年連続トップ|個別労働紛争解決制度 令和7年度データと解決事例8選

労働・法律紛争

厚生労働省は令和8年7月7日、令和7年度における「個別労働紛争解決制度」の施行状況を公表しました。総合労働相談件数は約120万件にのぼり、なかでも「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は14年連続で最多という結果になっています。本記事では、公表された統計データを整理するとともに、都道府県労働局が実際に解決へ導いた8つの事例を交えて、職場トラブルの最新傾向と制度の使い方をわかりやすく解説します。

  • 総合労働相談は何件寄せられ、何が一番多いのか
  • 労働局の「助言・指導」「あっせん」はどのくらい利用されているのか
  • 実際にどのような解決金額・条件で決着しているのか(事例8選)

「個別労働紛争解決制度」とは|3段階の相談窓口

個別労働紛争解決制度は、事業主と労働者個人の間で生じたトラブル(いわゆる「個別労働紛争」)を、裁判に発展する前に解決するための公的な仕組みです。全国380か所弱に設置された相談窓口を入口として、次の3段階で対応にあたります。

  1. 総合労働相談:全国378か所の総合労働相談コーナーで、面談・電話により相談を受け付ける入口部分。
  2. 助言・指導:都道府県労働局長が、労働関係法令や裁判例に基づいて当事者に解決の方向性を示す。
  3. あっせん:弁護士・大学教授などで構成される紛争調整委員会が、双方の言い分を聞いて話し合いによる解決を仲介する。

いずれも無料で利用でき、あっせんの手続きも非公開で進められるため、訴訟に比べて心理的・費用的な負担が小さいのが特徴です。

総合労働相談は約120万件|相談内容の内訳

令和7年度の総合労働相談件数は119万8,010件で、前年度からわずかに減少(0.3%減)したものの、依然として高い水準が続いています。内訳は次のとおりです。

相談内容件数
労働基準法等の法制度に関する問い合わせ78万3,579件
民事上の個別労働関係紛争に関する相談27万7,053件
労働基準法等の違反の疑いがあるもの22万9,156件

いじめ・嫌がらせが14年連続トップ|民事上の紛争相談の内訳

民事上の個別労働関係紛争相談27万7,053件のうち、最も多かったのは「いじめ・嫌がらせ」で5万5,614件(前年比1.1%増)。平成24年度以来、実に14年連続でトップという記録的な状況です。以下、自己都合退職、労働条件引き下げ、解雇の順に多くなっています。

相談項目件数備考
いじめ・嫌がらせ55,614件14年連続で最多、前年比1.1%増
自己都合退職38,386件2位
労働条件引き下げ33,368件3位
解雇32,651件4位

相談者の内訳を見ると、労働者本人からの相談が24万859件(86.9%)と大半を占め、事業主からの相談も2万3,472件(8.5%)ありました。就労形態別では正社員が11万1,468件(40.2%)と最も多い一方、短時間労働者3万8,574件、有期雇用労働者3万4,186件、派遣労働者1万4,074件と、非正規雇用の労働者からの相談も一定数を占めています。また外国人労働者からの相談は1万9,119件(うち技能実習生1,922件)にのぼりました。

労働局長による「助言・指導」の状況

都道府県労働局長による助言・指導の申出件数は9,616件で、前年度比8.5%増と大きく伸びました。項目別では「労働条件引き下げ」が1,220件(10.6%増)で最多となり、「いじめ・嫌がらせ」1,163件、「雇用管理等」937件が続きます。処理された9,595件のうち94.7%にあたる9,087件で実際に助言・指導が行われ、98.4%が申出から1か月以内というスピードで処理されています。

紛争調整委員会による「あっせん」の状況

あっせんの申請件数は4,486件で、前年度比16.0%増と助言・指導以上に大きな伸びを見せました。項目別では「解雇」が892件(前年比12.6%増)で最多、「いじめ・嫌がらせ」868件、「雇止め」475件と続きます。

処理結果件数割合
合意成立1,141件27.0%
打切り2,814件66.7%
取下げ234件5.5%

処理された4,220件のうち合意成立は1,141件(27.0%)にとどまり、打切りが2,814件(66.7%)と最も多くなっています。これは、あっせんが強制力を持たない話し合いの手続きであり、当事者双方が手続きに参加した割合も45.4%にとどまっていることが背景にあります。

【解決事例8選】助言・指導とあっせんはどう解決したのか

報告書の別添には、実際に制度を利用して解決に至った事例が「助言・指導」4件、「あっせん」4件の合計8件紹介されています。金額や条件の相場感、労働局がどのような法的根拠で当事者に働きかけたかがわかる貴重な情報のため、8件すべてを詳しく見ていきます。

助言・指導で解決した4つの事例

事例1:労働条件引き下げの一方的な提案

正社員として勤務していた労働者に対し、事業主が「受注量の減少」を理由に、1日8時間だった所定労働時間を5時間に短縮する提案を一方的に行いました。労働者が反対の意思を伝えても事業主が話し合いに応じなかったため、労働局に相談。労働局は事業主に対し、賃金や労働時間などの労働条件は労働者の同意なしに一方的に変更できないことを説明し、法令に沿った話し合いを行うよう助言しました。その結果、事業主と労働者の間で改めて話し合いが持たれ、従来どおりの労働時間を維持することで合意しています。

事例2:同僚からの怒鳴り・無視によるいじめ

正社員の労働者が、特定の同僚から怒鳴られたり無視されたりする嫌がらせを受け、事業主・上司に相談しましたが、「小規模な会社のため対応が難しい」として取り合ってもらえませんでした。労働局は事業主に対し、労働契約法第5条が定める安全配慮義務、および民法第715条の使用者責任に違反する可能性があることを説明。これを受けて事業主は当該同僚に職務態度について指導を行うとともに、作業レイアウトを変更するなどして職場環境の改善を図りました。

事例3:退職の意思表示を認めてもらえなかったケース

正社員の労働者が就業規則の定めに従い、退職の1か月前に退職の意思表示・届出を行ったところ、上司から「もっと早く言うべきだった」として退職を認めてもらえない状態が続きました。労働局は民法第627条第1項に基づき、退職の意思表示から2週間が経過すれば雇用契約は終了する旨を事業主に説明し、法令に沿った対応を助言。最終的に事業主と労働者の話し合いにより、労働者が希望する日付での退職が認められました。

事例4:協調性欠如を理由とした解雇

事業主が「協調性の欠如」を理由に正社員の労働者に解雇を通告しましたが、労働者は解雇理由に事実無根の点があると主張し、双方の話し合いも進みませんでした。労働局は労働契約法第16条が定める解雇権濫用法理(客観的合理的理由と社会的相当性を欠く解雇は無効)を説明し、話し合いによる解決を促進。結果として事業主は解雇を取り消し、1か月後に合意退職とすること、その間は出勤を免除したうえで賃金を満額支払うことで決着しました。

あっせんで解決した4つの事例

事例5:無視・道具使用禁止によるいじめと休職

正社員の労働者が、同僚から無視されたり業務に必要な道具の使用を禁止されたりする嫌がらせを受け、事業主に相談したものの十分な対応が得られませんでした。労働者はその後メンタルクリニックを受診し、休職に至ったことから、精神的苦痛と休職中の経済的損失を理由に150万円の解決金をあっせんで請求。あっせん委員が双方の主張を聴取したところ、事業主は社内調査を実施したものの事実関係を十分確認できておらず、調査が長期化していたことも踏まえて解決金の支払いを検討する運びとなり、最終的に20万円の解決金で合意が成立しました。

事例6:具体的説明のない解雇予告

短時間労働者が、事業主から「同僚からのクレームがあった」とだけ説明されて解雇を予告されましたが、具体的な理由の説明はありませんでした。労働者は不当解雇にあたるとして、3か月分の賃金に相当する20万円をあっせんで請求。あっせん委員が双方の主張を聴取したところ、事業主は勤務態度に問題があったと主張しつつも、早期解決を優先して解決金を支払う意向を示し、最終的に10万円の解決金で合意しました。

事例7:長期勤務の説明を受けていた有期契約の雇止め

3か月契約で採用された有期雇用労働者は、契約締結時に長期的な勤務を期待させる説明を受けていましたが、契約満了の1か月前になって業績不振を理由に次回契約の更新拒否(雇止め)を通告されました。書面上の理由は「能力不足」とされていたため、労働者は不当な雇止めであるとして精神的苦痛・経済的損失の補償50万円をあっせんで請求。あっせん委員が調整にあたったところ、事業主は契約期間満了に伴う終了であると主張しつつも、迅速な解決を図るため賃金1か月分相当の10万円を提示し、最終的に約20万円の解決金で合意が成立しました。

事例8:シフト日数が大幅に減らされたケース

短時間労働者は、採用時に月15日程度の勤務を見込んでいましたが、数か月後にシフトが月10日未満まで削減されました。事業主に改善を求めても状況が変わらず、見込んでいた収入が得られなくなったことから退職を余儀なくされたとして、被害補償30万円をあっせんで請求。あっせん委員が双方の主張を聴取したところ、事業主は「月15日勤務を確約したわけではない」としつつも、シフト変動についての説明が不十分だった点は認め、早期解決を志向。最終的に約10万円の解決金で合意しました。

8件の事例を見ると、助言・指導では労働契約法や民法の具体的な条文を示すことで事業主の認識を改め、金銭のやり取りなしに解決している点が特徴です。一方あっせんでは10万円〜20万円台の解決金で決着するケースが多く、当初の請求額(20万〜150万円)から大きく減額されて合意に至る傾向が見て取れます。あっせんはあくまで話し合いによる歩み寄りの手続きであり、裁判のように一方の主張がそのまま認められるわけではない点に注意が必要です。

今後の厚生労働省の対応方針

厚生労働省は今回の公表にあわせて、以下の3点に重点的に取り組む方針を示しています。

  • 総合労働相談コーナーにおける適切な相談対応体制の維持・強化
  • 助言・指導およびあっせんの的確な運用
  • 個別労働関係紛争の未然防止と迅速な解決の促進

なお、参考情報として、労働関係の民事通常訴訟の新受件数は4,214件(前年3,767件)に増加した一方、労働審判事件は3,359件(前年3,473件)とやや減少しており、個別労働紛争解決制度と司法手続きの利用動向にも変化が見られます。

まとめ|職場トラブルは一人で抱えず早期相談を

令和7年度の統計からは、「いじめ・嫌がらせ」をめぐる職場トラブルが依然として増加傾向にあること、そして助言・指導やあっせんの利用件数自体も前年より大きく伸びていることがわかります。個別労働紛争解決制度は無料かつ非公開で利用でき、実際に数万円〜数十万円規模の解決金で決着している事例も少なくありません。職場でのトラブルを感じたら、一人で抱え込まず、まずはお近くの総合労働相談コーナーに相談することをおすすめします。

出典・参考資料

本記事は、厚生労働省が公表した以下の報告書をもとに作成しています。詳細な統計表や集計方法については、一次資料をご確認ください。

▶ 厚生労働省「令和7年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」報告書(PDF)

【免責事項】本記事は厚生労働省が公表した統計資料をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の職場トラブルへの対応については、最寄りの総合労働相談コーナーや弁護士等の専門家にご相談ください。

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