地裁判決
判決理由
刑事事件
📅 令和7年(2025年)9月17日判決 | ⚖️ 福岡地方裁判所第2刑事部 | 💰 被害総額7,680万円(被害者6名・全10事件)
福岡県弁護士会所属の元弁護士・小山格被告に対し、福岡地裁は偽造有印公文書行使・詐欺・業務上横領の罪で求刑懲役8年に対し、求刑通り懲役8年の実刑を言い渡した(未決勾留日数240日算入)。
被告は弁護士としての立場と専門知識を悪用し、偽造した裁判書式や虚偽の説明を駆使して10件・総額7,680万円もの被害を発生させていた。判決文をもとに、犯行の全容と裁判所の量刑判断を詳しく解説する。
事件の概要――弁護士の信用を悪用した「二重構造」の犯行
令和7年9月17日、福岡地方裁判所第2刑事部は、福岡県弁護士会所属の元弁護士・小山格被告(求刑・判決とも懲役8年)に対し、実刑判決を言い渡した。被害者は6名、被害総額は約7,680万円にのぼり、犯行は第1事件から第10事件まで10件に分けて起訴されている。
本件の犯行は大きく2つの類型に分かれる。ひとつは、裁判所書記官作成名義の書式を偽造して依頼者を信じ込ませる「裁判手続を装った供託金詐欺型」。もうひとつは、依頼者から預かった金銭をそのまま私的に流用する「預り金の横領型」だ。さらに悪質なのは、この2類型に加えて「虚偽の債務回答書」「代理人なりすまし」「依頼者のプライバシー情報の悪用」といった手口が組み合わされている点である。
類型①
供託金詐欺型
偽造書式で供託の必要性を装い、金銭を振り込ませる(第1・5事件)
類型②
預り金横領型
依頼者から預かった和解金・売買代金を私的に流用(第2・3・4・8・9事件)
類型③
なりすまし・悪用型
代理人なりすましや依頼者情報の悪用で金銭を詐取(第6・7・10事件)
① 仮差押決定書を偽造した供託金詐欺(第1事件・850万円)
最初の事件は、裁判所の権威をそのまま悪用した手口だった。被告は依頼者に「仮差押命令を申し立てる」と説明し、「供託金850万円が必要」と告げた。その裏付けとして、裁判所書記官作成名義の仮差押決定書であるかのように装った文書の写しデータをメールで送信し、依頼者を信用させたうえで指定口座へ振り込ませている。
⚠️ 手口の流れ
- 「仮差押命令を申し立てる」と説明し、供託金850万円が必要と告知
- 裁判所書記官名義を装った”仮差押決定書”の写しをメール送信
- 「入金され次第、直ちに供託する」と約束し振込を指示
- 実際には供託せず、850万円を私的に流用
裁判書式そのものを偽造し、真正な文書であるかのように装った点が、後述する裁判所の非難につながる決定的な要素となった。
② 株式売買代金約1,941万円の横領(第2事件)
株式売買契約の交渉を受任した被告は、売買代金が自身の弁護士口座に振り込まれると、「依頼者のために預かっている状態」を利用し、6回に分けて現金を払い戻して私的用途に流用した。被害額は1,941万9,110円にのぼる。
この事件で争点となったのが「委託信任関係」の有無、すなわち被告が本当に依頼者の金銭を預かる立場にあったといえるかどうかだった。裁判所は、委任状の存在、継続的な契約関係、交渉経緯を示す証拠をもとに、委任関係を明確に認定している。
――被告人の「報酬相当額を控除すべき」との弁解に対する判決要旨より
③ 和解金・登記費用・預り金の横領(第3・4・8・9事件)
同種の横領は他にも4件確認されている。訴訟・交渉・和解を受任し、相手方から振り込まれた和解金や、依頼者から費用名目で受け取った金銭を、預り金として保管すべき立場にありながら、短期間で引き出して流用するという構造は共通していた。
| 事件番号 | 手口 | 被害額 |
|---|---|---|
| 第3事件 | 和解金の横領 | 500万円 |
| 第4事件 | 預り金の横領 | 631万円 |
| 第8事件 | 預り金の横領 | 1,200万円 |
| 第9事件 | 預り金の横領 | 32万円 |
特徴的なのは「短期間での引き出し」で、供託や依頼者への支払いが実行された形跡はいずれも確認されなかった。4件合計の被害額は2,363万円にのぼる。
④ 虚偽の債務回答書による追加供託金詐取(第5事件・170万円)
すでに横領済みであるにもかかわらず、被告は「利息が発生している」「遅延損害金が必要」「今日中に供託する」などと説明し、内容虚偽の銀行回答書を示して依頼者を信用させ、さらに現金170万円を交付させた。
▶ 「穴埋め型」の二次的詐欺
すでに着服済みであることを隠すために、追加の虚偽説明で金銭をさらに引き出す構造。ひとつの噓が次の噓を呼ぶ典型例といえる。
⑤ 代理人なりすましによる企業からの詐取(第6・7事件・合計1,491万7,864円)
実際には依頼を受けていないにもかかわらず、被告は「代理人受任通知書」を企業へFAX送信し、管理費・返還請求名目で支払いを要求、自身の口座へ振り込ませた。企業側の担当者を誤信させ、第6事件で154万8,971円、第7事件で1,336万8,893円、合計約1,491万7,864円を騙し取っている。
⑥ 不倫スキャンダルを捏造した865万円詐欺(第10事件)
10件の中でもっとも悪質と評価されたのがこの事件である。被告は過去に依頼を受けたことのある顧客へ連絡し、「元不倫相手の配偶者が慰謝料を請求している」「ニュースサイトに掲載される動きがある」「差止め仮処分のための供託金が必要」などと説明し、現金865万円を受領した。
⚠️ 実際には存在しなかった事実
- 配偶者からの慰謝料請求は存在せず
- ニュースサイトへの記事掲載の動きも存在せず、完全な虚偽だった
かつて依頼を受けた際に知り得た依頼者のプライバシー情報を悪用し、心理的に追い詰めて金銭を引き出す――弁護士としての職務上の信頼関係を根本から裏切る手口だった。
全10事件の被害額一覧
判決文で認定された10件の被害額を一覧にまとめると、以下のとおりである。
| 事件 | 罪名・手口の類型 | 被害額 |
|---|---|---|
| 第1事件 | 仮差押決定書偽造による供託金詐欺 | 850万円 |
| 第2事件 | 株式売買代金の横領 | 1,941万9,110円 |
| 第3事件 | 和解金の横領 | 500万円 |
| 第4事件 | 預り金の横領 | 631万円 |
| 第5事件 | 虚偽債務回答書による追加供託金詐取 | 170万円 |
| 第6事件 | 代理人なりすまし詐欺 | 154万8,971円 |
| 第7事件 | 代理人なりすまし詐欺 | 1,336万8,893円 |
| 第8事件 | 預り金の横領 | 1,200万円 |
| 第9事件 | 預り金の横領 | 32万円 |
| 第10事件 | プライバシー悪用詐欺(不倫スキャンダル捏造) | 865万円 |
| 合計 | 約7,680万円 | |
裁判所の評価――「弁護士にあるまじき犯行」
裁判所は量刑理由の中で、弁護士の専門知識の悪用、被害者の信頼を逆手に取った点、嘘に嘘を重ねる常習性、被害総額の大きさを強く非難した。
――福岡地方裁判所判決要旨より
――福岡地方裁判所判決要旨より
被告人は複数の弁解を試みたが、いずれも排斥された。業務受任の事実を否定する主張は依頼者の具体的な供述と書面によって否定され、報酬相当額を控除すべきとの主張も「委任契約に基づく報酬請求権は発生していない」として退けられている。検察官の求刑も懲役8年であり、裁判所はこれを減軽することなく、求刑通りの実刑判決を言い渡した。
本件の法的ポイント――業務上横領はどう成立するのか
業務上横領罪が成立するためには、被告が依頼者の金銭を「委託を受けて占有していた」といえる関係、すなわち委託信任関係が必要となる。本件では、委任状の存在、実際の交渉経緯、継続的な依頼関係という3要素が揃っていたことから、この関係が明確に認定された。
被告側が主張した「報酬相当額の控除」も認められなかった点は重要だ。弁護士報酬は委任契約に基づいて初めて発生する権利であり、横領した金銭から一方的に報酬分を差し引いて正当化することはできない、という考え方が示されている。
📌 この判決のポイントまとめ
- 福岡地裁は、元弁護士・小山格被告に求刑通り懲役8年の実刑を言い渡した(被害者6名・被害総額約7,680万円)
- 犯行は「裁判手続を装った供託金詐欺型」と「預り金の横領型」を軸に、代理人なりすましやプライバシー悪用も組み合わされた複合型だった
- 裁判所書記官作成名義の書式を偽造するなど、真正文書を装った点が特に重く評価された
- 業務上横領の成立には委任状・交渉経緯・継続的関係による「委託信任関係」の認定が鍵となった
- 被告の弁解はすべて排斥され、「弁護士にあるまじき卑劣な犯行」として求刑通りの実刑が科された
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出典・参考資料
福岡地方裁判所 令和7年9月17日判決全文(PDF・裁判所ウェブサイト)
【免責事項】
本記事は、裁判所ウェブサイトで公開されている判決文(判決全文PDF)に基づき作成しています。ただし、判決文の要約・再構成にあたっては読みやすさを優先しており、法的な正確性を保証するものではありません。本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の事案の評価や対応については弁護士など専門家にご相談ください。



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