📅 令和8年(2026年)6月18日宣告 | ⚖️ 東京地方裁判所刑事第1部 | 📂 令和6年特(わ)第1836号
自民党の衆議院議員を2期務めた弁護士・今野智博被告が、自分の名義を無資格の事務員に使わせて特殊詐欺の被害金回収業務を行わせていたとして弁護士法違反(非弁護士との提携)の罪に問われた事件で、東京地方裁判所は2026年6月18日、懲役1年6か月・執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。
公判で被告人と弁護人は最後まで無罪を主張し続けたが、裁判所はその言い分をひとつも認めなかった。何があったのか、判決文をもとに詳しく追っていく。
事件の概要──元衆院議員が「先生」として名義を貸した非弁行為
今野智博被告は埼玉県深谷市で今野法律事務所を営む弁護士だ。2024年6月13日、弁護士資格を持たない男女を使い、特殊詐欺やロマンス詐欺の被害者から着手金をだまし取っていた疑いで警視庁に逮捕された。同年7月2日、弁護士法違反罪で起訴。その後、犯罪で得た収益の出どころを偽装したとして組織犯罪処罰法違反の容疑でも追送検されている。
今回、東京地裁が判決を出したのは、このうち起訴事実として特定された非弁行為の部分だ。判決文によれば、被告人はC、D、Eらと共謀し、2023年12月21日から2024年1月5日にかけて、東京都港区内のビル7階に構えたオフィスで、弁護士資格のない事務員たちに「今野智博」の名義を使わせ、詐欺被害金の回収業務を行わせていた。被害者からの電話相談への対応、法的な助言、口座凍結の手続きまで、一連の流れをすべて事務員が担っていたという。
⚠️ 「非弁行為」とは何か
- 弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬目的で法律事務を取り扱うこと(非弁行為)を禁止している。
- 同法27条は、弁護士が自己の名義を非弁護士に利用させることも禁じており、今回の起訴事実はこちらに該当する。
- 「先生の名前さえ借りれば合法的に見える」——この発想自体が依頼者の判断を誤らせるところに、通常の詐欺より見つかりにくい怖さがある。
手口の全容──相談から着手金収受までの流れ
事務員が「弁護士」として対応
手口はこうだ。特殊詐欺やロマンス詐欺の被害に遭った人がオフィスに電話をかけると、出るのは弁護士資格のない事務員。事務員は被害の状況を聞き取り、「それは法的に詐欺に該当する」と伝え、取り得る法的手段を説明し、被害金を回収できる見込みまで話していたという。電話口の相手は、当然ながら今野弁護士本人だと信じて話している。
着手金の額を提示するのも事務員の役目だった。依頼者はオンラインの契約システムを通じて「今野智博」名義の委任契約を結ばされる。契約が成立すると、今度は被告人名義で金融機関に口座凍結依頼書が送られる。書類上の名義人と、実際に電話口で相談に乗っていた人物が違う——依頼者側からは、まず見抜きようのない仕組みになっていた。
判決が認定した5件の被害事例
判決の別表には、起訴事実として特定された5人分の相談日と着手金額が並ぶ。いずれも2023年12月21日から2024年1月5日までのわずか2週間ほどに集中しているのが目を引く。
| 相談日 | 着手金額 |
|---|---|
| 2023年12月21日 | 125万4000円 |
| 2023年12月24日 | 61万3000円 |
| 2023年12月30日 | 約20万円 |
| 2024年1月4日 | 25万円 |
| 2024年1月5日 | 49万5000円 |
5件を合計するだけで着手金は281万2000円。しかもこれは、裁判所が起訴事実として認定したごく一部にすぎない。逮捕時の報道では、無資格者を使って特殊詐欺やロマンス詐欺の被害者およそ900人から総額約5億円の着手金を集めていた疑いがあるとされていた。今回の判決は、その大きな構図のほんの入り口を裁いたものと見たほうがいい。
判決の内容と量刑理由
——東京地方裁判所判決主文より
検察側の求刑も懲役1年6月。裁判所はこれをそのまま採用した。求刑通りの判決自体は珍しくないが、被告人・弁護人が最後まで無罪を主張していたことを考えると、検察側の主張をほぼ丸ごと認めた格好だ。
| 区分 | 裁判所の指摘 |
|---|---|
| 不利な事情 | 非弁行為は「組織的、継続的に行われた」ものであり、「依頼者の利益を損ね、非弁行為をする者を利したのみならず、弁護士業務に対する社会的信頼も損ねた」。犯行動機についても「安易で利欲的な犯行動機に特に酌むべき点はない」と厳しく指摘した。 |
| 有利な事情 | 前科がないこと、そして「EやCに利用され、それに流されてしまった面がある」ことを考慮し、「刑の執行を猶予するのが相当」と判断した。 |
元衆院議員という肩書を持つ弁護士が、非弁行為をする側に「利用された」と評価される——なんとも言えない構図だが、判決はそれで加担の重さが軽くなるとは判断していない。組織的・継続的な行為だったという厳しい評価と、執行猶予という結論は、別の話として両立させている。
被告人・弁護人の主張と、裁判所がそれを退けた理由
今野被告は公判で、繰り返し自らの関与を否定した。判決文によれば「依頼者から回収見込みを聞かれた場合、絶対に言わず、やってみないとわからないと回答するように指示していた」と述べ、回収可能性を口にしていたのは事務員の独断だったかのような弁解をしている。「先生電話の存在を知らなかった」とも主張した。「先生電話」とは、事務員が弁護士本人になりすまして依頼者に応対する、あの電話のことだ。
——東京地方裁判所判決文より(弁護人の主張の要旨)
裁判所の答えは端的だった。被告人・弁護人の主張はいずれも「採用できない」。事務員が実質的に法律事務を担い、依頼者との接点のほとんどを非弁護士が握っていた実態を踏まえれば、「指示監督下にあった」という弁解に説得力はない——そう判断したとみられる。無罪の主張が通らなかった以上、その争い方自体が情状として働くこともなかった。
今野智博とはどんな人物か
今野智博被告は埼玉県深谷市出身。巣鴨高校から早稲田大学政治経済学部政治学科に進んだ。2003年に司法試験に合格し、2005年に弁護士登録。埼玉弁護士会に所属し、地元・深谷市で今野法律事務所を開いていた。
政界入りは2012年の衆院選から。自民党公認で埼玉11区に出馬したが、無所属の小泉龍司氏に敗れ、比例北関東ブロックでの復活当選で初当選した。2014年の衆院選も同じく小泉氏に競り負けながら比例復活で再選。しかし2017年の衆院選では無所属での出馬となり、落選した。以後は弁護士業に軸足を戻していたとみられる。見出しにはどうしても「元衆院議員」の肩書がつきまとうが、実際の当選歴は比例復活の2期にとどまる。
起訴事実の外側にある「もう一つの顔」
今回の東京地裁判決が対象にしたのは、あくまで5件の非弁行為だ。だが事件全体の輪郭は、そのはるかに外側まで広がっている。逮捕当時の報道では、無資格の男女を使って特殊詐欺やロマンス詐欺の被害者およそ900人から、総額約5億円の着手金を不正に集めていた疑いがあると伝えられた。犯罪で得た収益の出どころを偽装したとして、組織犯罪処罰法違反の容疑での追送検も経ている。
被害者側は民事訴訟にも動いた。2024年10月、着手金を払ったのに被害金を回収できなかったとする被害者15人が、今野被告らに約1800万円の損害賠償を求めて提訴している。原告側の言い分は「特殊詐欺の二次被害と言える」というものだ。刑事と民事、両方の責任追及が並行して進んでいる。
東京新聞の報道では、今野被告と共同で事件を受任していた別の弁護士にも、同様の名義貸し行為の疑いが指摘されている。今回の判決が非弁行為の「入口」だとすれば、事件の全容はまだ見えていない。
埼玉弁護士会の対応
2024年6月の逮捕報道を受け、今野被告が所属する埼玉弁護士会は特設の電話相談窓口を設けた。会員向けの案内文書には、今野被告の依頼者からの問い合わせに対応する専用番号が示され、当面は弁護士会が窓口となるものの、2024年8月9日以降は被告人本人が直接対応するとも書かれていた。弁護士本人が刑事被告人になった状態のまま、依頼者対応が続いていたことになる。
まとめ
元国会議員という肩書を持つ弁護士が、自分の名義を対価と引き換えに他人へ使わせていた。判決が「安易で利欲的」と切り捨てた一言に、裁判所の苛立ちがそのまま出ている気がする。
とはいえ、今回裁かれたのは5件・281万円あまりの非弁行為だけだ。逮捕時点で伝えられた900人・5億円という数字、進行中の民事訴訟、追送検された組織犯罪処罰法違反の行方——事件にはまだ片付いていない部分のほうが多い。続報を追いたい。
📌 この判決のポイントまとめ
- 東京地裁は2026年6月18日、元衆院議員・弁護士の今野智博被告に懲役1年6か月・執行猶予3年(求刑通り)の有罪判決を言い渡した。
- 認定された手口は、無資格の事務員に「今野智博」の名義を使わせ、特殊詐欺被害金の回収を装って着手金を集めるというもの。判決が特定した5件だけで着手金281万2000円にのぼる。
- 被告人・弁護人は無罪を主張したが、裁判所は「組織的、継続的な非弁行為」「社会的信頼を損ねた」としてすべて退けた。
- 逮捕時点の疑惑は被害者約900人・総額約5億円とされ、今回の判決はその一部にすぎない。被害者による民事訴訟や組織犯罪処罰法違反の追送検も動いている。
よくある質問
Q. 「非弁行為」はなぜ弁護士法で禁止されているのですか?
A. 弁護士資格のない者が法律事務を扱うと、専門知識のチェックや懲戒・賠償責任の仕組みが働かず、依頼者が不利益を受けやすくなるためです。弁護士が自分の名義を貸すこと(弁護士法27条違反)は、この仕組み自体を形だけ整えて依頼者を安心させてしまう点で、通常の無資格営業より悪質と評価されやすい行為です。
Q. なぜ懲役刑なのに実際には刑務所に入らずに済むのですか?
A. 判決は「執行猶予3年」を付けているため、その3年間に新たな罪を犯すなどして猶予が取り消されない限り、実刑は執行されません。今回は前科がないことなどが執行猶予の理由として挙げられています。
Q. 今野智博被告の議員としての身分は今どうなっていますか?
A. 今野被告は2017年の衆議院選挙で落選して以降、国会議員の身分は有していません。今回の事件は、議員辞職ではなく、元議員が弁護士として起こした事件として扱われています。
出典・参考資料
- 東京地方裁判所 令和6年特(わ)第1836号 判決全文(裁判所ウェブサイト)
- 今野元衆院議員に有罪 弁護士名義、事務員に貸す―東京地裁(時事通信)
- 今野智博元衆院議員に有罪判決 弁護士法違反事件で東京地裁(日本経済新聞)
- 今野智博元議員に懲役1年6月求刑 弁護士法違反事件、無罪を主張(日本経済新聞)
- 今野智博元議員、初公判で無罪主張 弁護士法違反事件(日本経済新聞)
- 今野智博容疑者の「共同受任先」弁護士も名義貸し行為か(東京新聞デジタル)
- 特殊詐欺被害「回収できます」と着手金だまし取る? 元衆院議員の今野智博被告らを提訴(読売新聞オンライン)
- 今野智博会員に関するQ&A(埼玉弁護士会)
- 今野智博(Wikipedia)
【免責事項】本記事は上記の判決文および報道をもとに事実関係を整理したものであり、法的助言を目的とするものではありません。刑事事件は控訴等により結論が変わる可能性があります。個別の法律問題については弁護士など専門家にご相談ください。また、被害者の方々への配慮から、判決文に記載のない被害者の個人情報には言及していません。



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