【最高裁2022年1月28日判決】離婚慰謝料の遅延損害金は「離婚成立時」から発生|法定利率3%への影響を解説

最高裁2022年1月28日判決 離婚慰謝料の遅延損害金に関するアイキャッチ画像 離婚・男女間の紛争

最高裁判所第二小法廷は令和4年1月28日、離婚に伴う慰謝料の遅延損害金について、どの時点の法定利率を適用すべきかを判断する重要な判決を言い渡しました。争われたのは、大阪高等裁判所が命じた120万円の離婚慰謝料のうち20万円部分にかかる遅延損害金の利率です。原審は年5分(旧法)としていましたが、最高裁はこれを破棄し、年3パーセント(新法)が適用されると判断しました。

本記事では、この最高裁判決(令和2年(受)第1765号)の事案の経緯と裁判所の判断枠組みを整理し、なぜ利率が変わったのか、離婚慰謝料を請求する側・される側にとってどのような実務上の意味を持つのかを解説します。

■ この記事のポイント

  • 離婚慰謝料の遅延損害金は、「離婚が成立した時」に発生すると最高裁が判示した
  • その結果、年3パーセント(民法改正後の新しい法定利率)が適用されることになった
  • 別居や不貞行為など婚姻破綻の原因が発生した時期がいつであっても、離婚成立の時点を基準に利率が決まる
  • 令和2年4月1日以降に離婚が成立するケースでは、遅延損害金は原則年3%になる

判決の概要|離婚慰謝料の遅延損害金は年3%に

事件番号 令和2年(受)第1765号 離婚等請求本訴、同反訴事件
裁判所 最高裁判所第二小法廷
裁判長 菅野博之裁判官(三浦守裁判官、草野耕一裁判官、岡村和美裁判官)
判決日 令和4年1月28日
上告人 X(夫・離婚を本訴で請求)
被上告人 Y(妻・反訴で離婚と慰謝料を請求)
原審 大阪高等裁判所 令和2年9月3日判決
争点 離婚慰謝料の遅延損害金にどの時点の法定利率を適用するか
結論 20万円部分の遅延損害金の利率を年5分から年3パーセントに変更。その余の上告は棄却・却下

この事件は、離婚そのものの成否や親権・財産分与を争ったものではありません。妻Yの離婚請求と慰謝料請求はすでに大阪高裁の段階で認められており、最高裁で争われたのは、認められた慰謝料に付随する遅延損害金の「利率」というごく技術的な一点でした。しかし、この一点が離婚慰謝料を巡る実務全体に影響する重要な法律問題だったのです。

事案の経緯|結婚から別居、離婚成立まで

XとYは平成16年11月に婚姻の届出をしました。夫婦関係はその後悪化し、平成29年3月に別居に至っています。夫Xが離婚を求めて本訴を提起したのに対し、妻Yは反訴で離婚と慰謝料の支払いを求めました。

原審の大阪高等裁判所は令和2年9月3日、Yの離婚請求を認め、Xに対して慰謝料120万円の支払いを命じました。あわせて、このうち20万円については「本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金」の支払いも命じています。この年5分(年5%)という利率は、民法改正前の旧法定利率にあたります。

Xはこの遅延損害金の利率を不服として上告受理申立てを行いました。なお、子の監護費用(養育費)に関する部分についても上告受理の申立てがされていましたが、申立書に理由の記載がなかったため、この部分は却下されています。

争点|遅延損害金には「いつの時点」の利率を適用するのか

民法は平成29年法律第44号による改正で、法定利率を年5%から年3%に引き下げました(改正法は令和2年4月1日施行)。この改正には経過措置があり、金銭債務が「いつ遅滞に陥ったか」によって、旧利率(年5%)と新利率(年3%)のどちらを適用するかが分かれます。

本件では、婚姻関係が破綻した別居の時点(平成29年3月)が施行日より前であるため、原審はこれを基準に旧利率である年5分を適用しました。これに対し最高裁は、そもそも離婚慰謝料の請求権自体がいつ発生するのかという、より根本的なところから判断をやり直しています。

最高裁の判断枠組み

最高裁はまず、離婚慰謝料請求権の性質について次のように述べています。

「離婚に伴う慰謝料請求は、夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり、このような損害は、離婚が成立して初めて評価されるものであるから、その請求権は、当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。」

そのうえで、不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく遅滞に陥るという一般原則を確認し、次のように結論づけました。

「離婚に伴う慰謝料として上告人が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥るというべきである。」

この結果、20万円部分の遅延損害金は「本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員」に変更されました。起算日(本判決確定の日の翌日)自体は原審と変わらず、変わったのは利率だけという点がポイントです。個人的には、別居の時点ではなく離婚成立の時点を基準にするという理屈は、慰謝料が「離婚という結果」に対する賠償であることを踏まえると筋が通っていると感じます。

なぜこの判決が実務に影響するのか

この判決の実務的な意味は、婚姻破綻の原因(不貞行為や暴力、別居など)がいつ起きたかにかかわらず、遅延損害金の利率は離婚が成立した時点を基準に決まる、と最高裁が明確にした点にあります。

離婚訴訟は、別居から判決確定まで数年単位の時間がかかることも珍しくありません。婚姻破綻の原因自体は民法改正前の令和2年4月1日より前に生じていても、実際に離婚が成立するのがそれより後であれば、遅延損害金は新しい年3%の利率が適用されることになります。婚姻関係が破綻してから離婚が成立するまでの期間が長引くケースほど、この判断の影響を受けやすいと言えるでしょう。

慰謝料の元本そのものが変わるわけではないため一見地味な争点に見えますが、遅延損害金は判決確定から支払いまでの期間分だけ積み上がっていくものです。長期化した離婚紛争ほど、年5%と年3%の差が最終的な負担額に無視できない影響を与える可能性があります。

判決主文

最高裁が示した主文の要旨は次のとおりです。

  • 原判決中、20万円に対する遅延損害金の利率を「年5分」から「年3パーセント」に変更する
  • 子の監護費用の分担に関する上告受理申立てについては、上告受理申立て理由の記載がないため却下する
  • 上告人のその余の上告は棄却する
  • 訴訟の総費用は5分し、その4を上告人の負担、その余を被上告人の負担とする

まとめ|離婚慰謝料の遅延損害金は「離婚成立時」が基準

今回の最高裁判決は、離婚慰謝料の遅延損害金についてどの時点の法定利率を適用するかという、一見テクニカルながら実務上は避けて通れない論点に決着をつけたものです。婚姻破綻の原因発生時ではなく離婚成立時を基準とする、というシンプルな整理ですが、法定利率が5%から3%に引き下げられた経過期にある事件では、この判断ひとつで遅延損害金の額が大きく変わり得ます。離婚訴訟が長期化しがちな現実を踏まえると、この判決は今後も同種の事案で繰り返し参照される基準になりそうです。

よくある質問

Q. 離婚慰謝料の遅延損害金はいつから発生しますか?

A. 今回の最高裁判決によれば、離婚慰謝料の損害賠償債務は「離婚が成立した時」に遅滞に陥るとされています。本件では「本判決確定の日の翌日」を起算日として遅延損害金が発生するとされました。

Q. 法定利率が年5%と年3%の2種類あるのはなぜですか?

A. 平成29年法律第44号による民法改正で、法定利率が年5%から年3%に引き下げられ、令和2年4月1日から施行されました。金銭債務がいつ遅滞に陥ったか(原則としてその時点で法定利率が固定される)によって、新旧どちらの利率が適用されるかが決まります。

Q. 別居期間が長い場合、遅延損害金の利率にはどう影響しますか?

A. 今回の判決により、別居や婚姻破綻の原因発生がいつであっても、遅延損害金の利率は離婚成立時点を基準に判断されることになりました。そのため、別居が長期化して離婚成立が令和2年4月1日以降になった場合は、新利率である年3%が適用される可能性が高くなります。

出典・参考資料

本記事は、裁判所ウェブサイトの「裁判例検索」で公表されている以下の判決文をもとに作成しています。事実関係や法的根拠の正確な記載については、必ず一次資料をご確認ください。

▶ 最高裁判所第二小法廷 令和4年1月28日判決(令和2年(受)第1765号 離婚等請求本訴、同反訴事件)判決文全文(PDF)

【免責事項】本記事は裁判所ウェブサイトで公表された判決文をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別の離婚・慰謝料請求に関するご相談は、弁護士等の専門家にご相談ください。

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