「不要品はないですか」と訪ねてきた業者に、いらない食器や家電を渡すつもりで承諾したら、後日別の担当者が現れて「貴金属はありませんか」と粘られた——。消費者庁は令和8年8月5日、こうした手口で特定商取引法に違反したとして、福岡市博多区の同一住所を拠点とする株式会社R-group、株式会社キャピタルリンク、株式会社Two-callの3社に対し、訪問購入業務の9か月間の業務停止命令を出しました。あわせて2社の代表取締役を務める細川竜志氏、村惠貴一氏の両名にも、同期間の役員禁止命令が出されています。公表資料には4件の具体的なやり取りが記録されており、勧誘の実態がかなり詳しく読み取れる内容になっています。
処分の概要|3社の会社名・所在地・代表者
今回処分を受けたのは、いずれも福岡市博多区豊一丁目9番18号の同一建物内に登記された3つの会社です。2社の代表を細川竜志氏が兼務しており、事実上一体の事業として訪問購入を展開していたとみられます。
| 事業者名 | 本店所在地 | 代表取締役 |
|---|---|---|
| 株式会社R-group | 福岡市博多区豊一丁目9番18-1号室 | 細川竜志 |
| 株式会社キャピタルリンク | 福岡市博多区豊一丁目9番18-2号室 | 村惠貴一 |
| 株式会社Two-call | 福岡市博多区豊一丁目9番18-1号室 | 細川竜志 |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 処分行政庁 | 消費者庁 |
| 公表日 | 令和8年8月5日 |
| 業務停止命令の期間 | 令和8年8月5日~令和9年5月4日(9か月間) |
| 対象業務 | 訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘、申込みの受付、契約の締結 |
| 役員に対する業務禁止命令 | 細川竜志・村惠貴一の両名に、同期間中の訪問購入関連業務の新規開始・役員就任を禁止 |
| 主な法的根拠 | 特定商取引法第58条の12第1項(指示)、第58条の13第1項(業務停止命令)、第58条の13の2第1項(業務禁止命令) |
何が問題だったのか|6つの法令違反
今回の処分で消費者庁が認定した違反行為は、単発のミスではなく、勧誘のプロセス全体に組み込まれた仕組みと言えるものでした。訪問購入は通常の訪問販売以上に規制が細かく、次の6点が問題視されています。
- 氏名等明示義務違反:令和6年8月から令和7年4月にかけて、勧誘に先立ち「富福の●●と言います」などと個人名のみを名乗り、R-group・キャピタルリンク・Two-callのいずれの企業名も明かしていなかった
- 勧誘要請なき再勧誘:初回訪問では不要品(本件売買契約①)の勧誘承諾しか得ていないのに、再訪時に貴金属等(本件売買契約②)について、勧誘の要請を受けていない消費者に勧誘を行った
- 勧誘意思の未確認:訪問購入の勧誘に先立って行うべき、勧誘を受ける意思があるかどうかの確認を行っていなかった
- 契約拒否者への勧誘継続:「貴金属は持っていません」と明確に断った消費者に対し、なお勧誘を続けた
- 書面の記載不備:交付した契約書面に、クーリング・オフ期間(8日間)中は電磁的記録でも解除できることや、通知を発した時点で解除の効力が生じることなどの記載が欠けていた
- 引渡拒絶告知義務違反:物品を引き渡す消費者に対し、クーリング・オフ期間中は引渡しを拒むことができる旨を告知していなかった
「不要品」から「貴金属」へ|4つの勧誘事例
消費者庁の公表資料には、実際のやり取りがセリフ付きで4件記録されています。いずれも初回訪問で不要品の引き取りを持ちかけ、承諾を得たあとの再訪で貴金属の勧誘に切り替えるという、共通した二段構えの手口が見て取れます。
事例1(令和6年8月~9月):消費者Bへの執拗な貴金属勧誘
キャピタルリンクの従業員Zは消費者Aの自宅を訪れ、「富福のZと言います。この付近のご自宅を回っています。なにかいらないものがあれば持って行きますが、何かないですか」と声をかけました。Aさんは不要品(本件売買契約①)に限って後日の引き取りを承諾しています。
ところが再訪時、Two-callの従業員Yが対応したのは同居する消費者Bでした。Yは「貴金属お持ちじゃないですか。何か持ってませんか」と切り出し、Bさんが「貴金属は持っていません」とはっきり断ったにもかかわらず、「ちょっと探してみてもらえませんか」「指輪もないんですか」と食い下がりました。最終的に本件売買契約①②の両方が締結され、物品を引き渡す際にクーリング・オフ期間中は引渡しを拒める旨の告知もありませんでした。
事例2(令和6年10月中旬):テレビをきっかけに現れた「詳しい者」
消費者Cのケースでは、玄関先に出されていたテレビが最初の接点でした。従業員Xは「玄関先にテレビが出てますけど、それ、持って行きましょうか。この近所をたまたま回ってたんですけど」と声をかけ、不要品の引き取り承諾を得たうえで「この近くに詳しい者が来ています。後で査定に来ます」と告げて立ち去っています。
後刻訪れた従業員Wは、Cさんに対し「ところで、貴金属とかアクセサリーとかって持ってないですか。買い取りますよ」と切り出しました。「詳しい者」という表現で新たな担当者の訪問を予告しておきながら、実際には貴金属の買い取り勧誘だったという点で、事例1とは異なる誘導の仕方が使われています。
事例3(令和7年1月下旬):拒否を無視した「何でもいい」からの引き取り
消費者Dの自宅には、まず従業員Vが「何か不要なものはありませんか、Vと言います」と訪れ、Dさんは後日の引き取りを承諾しました。翌日、今度は従業員Uが訪問し「何か、貴金属類はないですか」と尋ねています。
Dさんは「ないです」と拒否しましたが、Uは引き下がらず「不要な家電を引き取るので、何かないですかね」「何かないですか、何でもいい」と勧誘を続けました。当初は不要品の話にすり替えながらも、最終的には貴金属を含む本件売買契約①②の両方を成立させています。
事例4(令和7年4月上旬):「査定だけでも」で押し切る手口
最後の事例では、従業員Tが消費者Eの自宅で「買取りの富福です。この地域を回ってるんですけど。要らない食器とかの不要品ってないですか」と声をかけ、翌日以降の引き取りを取り付けました。
再訪した従業員Sは「ところで、貴金属とかってないですか。ネックレスとか。買取りますけど」と勧誘。Eさんが「そんなものありませんよ。うちには」と断ると、Sは「そう言わないで。貴金属どんなものでも良いから、何か持ってないですか」と続け、最後は「査定だけでもいいからさせて下さいよ」という言い回しで押し切りました。「査定だけ」という一言で心理的なハードルを下げてから契約に持ち込む、4事例の中でも特に巧妙な誘導です。
4件に共通するのは、①初回訪問では会社名を名乗らず「富福」という個人名めいた呼称だけで接触する、②不要品の引き取り承諾だけを取り付けて信頼のハードルを下げる、③再訪時に別の担当者が貴金属という当初と異なる話を持ち出す、という三段階の構造です。一方で、断られた際の切り返し文句(「探してみて」「何でもいい」「査定だけでも」)は事例ごとに変えられており、マニュアル的に統一された台本というより、現場の担当者ごとに手口をアレンジしていた可能性がうかがえます。
なぜ「訪問購入」はここまで規制が厳しいのか
訪問販売と違い、訪問購入は消費者が「売る側」に回る取引です。自宅にある思い入れのある品や高額な貴金属を、その場の雰囲気で安値のまま手放してしまうリスクが大きいことから、特定商取引法は訪問購入に限った独自のルールを設けています。今回の事例で問題になった「勧誘要請のない再勧誘の禁止」「勧誘意思の確認義務」「引渡拒絶告知義務」は、いずれも訪問購入特有の規制で、通常の訪問販売にはない条文です。
特に引渡拒絶告知義務は見落とされがちですが、クーリング・オフ期間中は物品の引渡しそのものを拒否できるという、消費者にとって非常に強い権利です。これを事業者があえて告げないというのは、契約後に消費者が冷静になって解除を申し出る機会を事実上封じる効果を持ちます。今回の3社がそろってこの告知を怠っていた点は、単なる説明不足というより、意図的な運用だったのではないかと見るのが自然でしょう。
訪問購入の勧誘を受けたときに気をつけたいこと
- 訪問してきた相手に会社名(法人名)を確認する。個人名や屋号らしき呼称しか名乗らない場合は要注意
- 「不要品だけ引き取ってもらうつもりだった」場合でも、後日の訪問で貴金属など別の品目を勧められたら、それは新たな勧誘であり承諾していないことをはっきり伝える
- 「いりません」「持っていません」と伝えたあとも勧誘が続く場合は、法律違反の可能性が高いのでその場で対応を打ち切ってよい
- 契約書面にクーリング・オフに関する記載があるか確認し、期間内(8日間)は物品の引渡しを拒否できることを覚えておく
- 不安な場合は契約前でも消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談する
まとめ
今回の処分が示しているのは、訪問購入という取引形態そのものが持つ危うさです。「不要品を引き取ってもらうだけ」という軽い気持ちで一度ドアを開けてしまうと、そこを足がかりに別の担当者が貴金属の勧誘へと切り替えてくる——今回の4事例はいずれもこのパターンをたどっており、初回訪問の承諾がいかに次の勧誘への突破口になりやすいかを物語っています。9か月という業務停止期間の長さや、代表者2名への役員禁止命令という踏み込んだ措置からも、消費者庁がこの手口を軽微とは見ていないことがうかがえます。
出典・参考資料
本記事は消費者庁が公表した以下の資料に基づいて作成しています。
免責事項
本記事は消費者庁が公表した行政処分に関する資料をもとに、事実関係を整理・解説したものです。事業者名・代表者名・住所等は同庁公表資料に記載された内容に基づいています。本記事の内容は情報提供を目的としており、特定の個人・法人を誹謗中傷する意図はありません。最新の状況や詳細については、必ず消費者庁の公表資料をご確認ください。



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