【金融庁2025年3月】東京海上日動火災保険に業務改善命令|乗合代理店・出向者による個人情報100万件超流出の全容を徹底解説

東京海上日動火災保険 業務改善命令|個人情報112万件超流出 保険会社の処分

乗合代理店が顧客の個人情報を他社に横流しし、出向させた社員がその代理店の顧客名簿を持ち帰る——金融庁が令和7年3月24日に公表した処分は、そんな「業界の慣行」が10年以上にわたって放置されてきた実態を突きつけるものでした。処分を受けたのは東京海上日動火災保険株式会社(本店:東京都千代田区)。保険業法第132条第1項に基づく業務改善命令で、しかも同社にとっては令和5年12月に続く二度目の処分です。漏えいが確認された個人データは合計で112万件を超え、国内損保最大手グループの一角として業界に与える影響も小さくありません。

処分の概要|二度目の業務改善命令の中身

今回の処分は、代理店を経由した情報漏えい(代理店事案)と、出向者を経由した情報漏えい(出向者事案)という二つの経路について、それぞれ法令違反を認定したものです。まずは全体像を一覧で確認します。

項目 内容
処分行政庁 金融庁
対象会社 東京海上日動火災保険株式会社(東京都千代田区)
処分の種類 業務改善命令(保険業法第132条第1項)
公表日 令和7年3月24日
代理店事案の漏えい等件数 401代理店・1,004,861件(全件が個人情報保護法違反に該当)
出向者事案の漏えい等件数 出向者110人・120,101件(うち69人・83,546件が個人情報保護法違反、一部は不正競争防止法にも該当)
違反行為の継続期間 2014年度以前から2024年度まで
改善計画の提出期限 令和7年5月30日(金)
進捗報告 3か月ごと(初回基準日:令和7年8月末)

注目すべきは、今回が初めての処分ではないという点です。東京海上日動は令和5年12月にも業務改善命令を受けており、その際の改善計画が実効性を欠いていたために、金融庁が改めて態勢整備を求める形になりました。行政処分を一度受けた会社が同じ根っこの問題で二度目の処分に至るケースは決して多くなく、それだけ問題の根が深いことを示しています。

手口①:乗合代理店を経由した個人情報の「またぎ共有」

1つ目の手口は、複数の損害保険会社の商品を扱う「乗合代理店」を経由した情報のやり取りです。金融庁の公表資料によれば、乗合代理店が東京海上日動に保険契約に関する連絡を行う際、当社の保険契約者等に関する個人情報を他の損害保険会社にも送付し、同時に東京海上日動側も他社の保険契約者情報を受け取っていたとされています。401の代理店でこうした事案が確認され、漏えい等の件数は100万件を超えました。

損害保険の代理店実務に触れたことがある立場から見ると、この構造自体は決して特殊なものではありません。ディーラーや整備工場が複数の損保会社の代理店を兼ねているケースは珍しくなく、契約者から見れば「同じ窓口」で複数社の見積もりや手続きが進む便利さの裏側で、担当者の頭の中では契約者情報がどの会社のものかという線引きが曖昧になりがちです。この取扱いが2014年度以前から2024年度まで、実に10年以上にわたって是正されなかったという継続期間の長さそのものが、特定の担当者による単発の不正ではなく、業界に根付いた業務フローの問題だったことを物語っています。

手口②:出向者が「出向元への手土産」に使った顧客情報

もう一つの経路は、保険代理店に出向していた東京海上日動の社員によるものです。出向者が、出向先の保険代理店の了承を得ずに、その代理店の顧客情報を出向元である東京海上日動に送付していたというもので、110人の出向者が関与し、漏えい等は120,101件、うち69人・83,546件が個人情報保護法違反、さらに一部は不正競争防止法上の営業秘密の取扱いにも抵触するとされました。

この手口が厄介なのは、動機が単純な私利私欲ではなく、人事制度そのものに組み込まれていた点です。出向者は出向元である東京海上日動の部署から人事評価を受ける立場にあり、金融庁の資料は「当社の業績に貢献する目的をもって」情報共有が行われていたと分析しています。実際、出向者のうち21人は不適切と認識しながら情報共有を行い、残る72人は「特段の問題意識がなかった」とされました。損保業界で出向という働き方を経験した人間からすれば、この「評価は出向元、仕事場は出向先」というねじれ構造は昔から指摘されてきた古典的な利益相反です。出向先の看板を背負いながら出向元の数字にも貢献しなければならないとなれば、境界線にあるグレーな情報共有に手を染めてしまう社員が一定数出るのは、ある意味で構造的必然だったとも言えます。

なぜ「二度目」の処分に至ったのか|経営体制と企業文化の欠陥

金融庁は根本原因として、経営陣が「保険代理店への社員出向という経営戦略を推進していた」一方で、そこに内在するリスクへの注意が不十分だったこと、また乗合代理店を重要な販路とするビジネスモデルに伴うリスクを十分に検討してこなかったことを挙げています。そのうえで「コンプライアンス及び顧客保護を軽視する企業文化が存在していた」と明言しました。

令和5年12月の初回処分の時点でも、こうした構造的な問題は当然把握できたはずです。それでもなお二度目の処分に至ったという事実は、最初の改善計画が「体制図を整えて研修を実施した」という体裁づくりにとどまり、出向や乗合代理店といったビジネスモデルの根幹に切り込めていなかった可能性を強く示唆します。業界内でよく言われることですが、行政処分後の改善計画がコンプライアンス部門主導の書面整備に終始し、実際に情報を握っている営業現場や出向者本人の意識・評価制度まで踏み込めないケースは少なくありません。今回金融庁があえて出向そのものの原則禁止に近い措置を求めたのは、まさにその「書面だけの改善」に対する警鐘だと見るのが自然でしょう。

業務改善命令の内容|金融庁が示した是正ポイント

金融庁が令和7年5月30日までの提出を求めた業務改善計画には、主に次の項目が盛り込まれています。

  • 法令遵守態勢の確立:営業担当者・出向者への教育を含めた法令遵守体制の整備
  • 顧客情報管理態勢の確立:代理店・出向先を含めた顧客情報の管理ルールの明確化
  • ビジネスモデルのリスク対応体制の構築:乗合代理店・社員出向という経営戦略に伴うリスクの再検討
  • 業務改善計画の策定・実施とその実効性の確保
  • 外部専門家によるレビュー:保険業やコーポレートガバナンスに関する専門的知見を持つ外部専門家によるチェック
  • 経営責任の明確化:真因分析に基づく経営陣の責任所在の明確化
  • 3か月ごとの進捗報告(初回基準日:令和7年8月末)

とりわけ目を引くのが出向に関する特別な条件です。金融庁は「保険募集の適切性を阻害する可能性、又は出向先において顧客の同意なく顧客情報を共有する可能性を真に排除できない場合は、原則として出向を行わないことにより実効性を確保すること」と明記しました。これは事実上、リスクを制御できないなら出向という手段そのものを使うなという踏み込んだ要求であり、単なる研修強化や体制図の見直しでは済まさない姿勢の表れと言えます。

まとめ

東京海上日動に対する今回の処分は、単発の情報漏えい事故ではなく、乗合代理店と社員出向という同社の営業戦略そのものに内在するリスクが、10年以上にわたり是正されないまま積み重なった結果です。一度目の業務改善命令から1年余りで二度目の処分に至った経緯を踏まえると、今後求められるのは書面上の体制整備にとどまらない、評価制度や出向の運用そのものに踏み込んだ改革であり、金融庁もそこを見透かした上で異例の踏み込んだ命令を出したというのが実情に近いでしょう。

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出典・参考資料

免責事項

本記事は金融庁が公表した行政処分に関する資料をもとに、事実関係を整理・解説したものです。文中の実務慣行に関する解説部分は、損害保険業界の一般的な商慣習を踏まえた分析・評価であり、特定の個人の証言を示すものではありません。会社名・件数・日付等は同庁公表資料に記載された内容に基づいています。本記事の内容は情報提供を目的としており、特定の個人・法人を誹謗中傷する意図はありません。最新の状況や詳細については、必ず金融庁の公表資料をご確認ください。

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