📅 令和7年(2025年)8月6日 | ⚖️ 関東財務局(金融庁) | 📂 保険業法第306条に基づく業務改善命令
「お金のプロに無料で相談できる」をうたう保険代理店「マネードクター」。運営するFPパートナーは、お客に勧める保険を選ぶとき、お客に合うかどうかより、保険会社から受けた支援の大きさを重く見ていました。
関東財務局は2025年8月6日、同社に業務改善命令を出し、支援をしていた生命保険8社にも報告を命じました。「おすすめされた保険」は本当に自分と家族のためのものだったのか。処分の中身と、契約者が損をしないための確認ポイントをまとめます。
FPパートナー(マネードクター)とはどんな会社か
FPパートナーは東京都文京区に本社を置く保険代理店です。「マネードクター」のブランドで、ファイナンシャルプランナー(FP)が自宅や職場を訪ねて無料でお金の相談に乗り、保険を提案するスタイルで急成長しました。
2022年に東証グロース市場へ上場し、2023年にはプライム市場へ移っています。2024年11月末時点で全国174拠点、保険募集人2,518人を抱える、訪問型の乗合代理店では業界最大手です。代表取締役社長は創業者の黒木勉氏です。
「乗合代理店」とは、複数の保険会社の商品を扱う代理店のこと。いくつもの会社の商品を比べて、お客に合うものを勧めてくれる——それが乗合代理店を選ぶ一番の理由のはずです。今回の処分は、まさにその前提が崩れていたことを指摘するものでした。
業務改善命令の内容:関東財務局が命じた5つのこと
処分の根拠は保険業法第306条。関東財務局は、FPパートナーに次の5点を命じました。
01
経営責任の明確化
問題を招いた経営陣の責任をはっきりさせる。
02
募集管理と保険会社との関係の見直し
保険募集の管理態勢を立て直し、保険会社と適切な距離を保つ。
03
顧客の意向把握の徹底
情報提供義務と、お客の希望を確かめる義務を実際に守れる仕組みにする。
04
法令遵守とガバナンスの強化
違法な手数料の支払いをやめ、社外の目で監督できる体制に。
05
改善計画の提出と報告
2025年10月6日までに計画を出し、以後6か月ごとに進み具合を報告。
処分のきっかけ:金融庁の立入検査で分かった4つの問題
今回の処分は、保険業法第305条第1項に基づく立入検査の結果を受けたものです。問題を理解するには、まずFPパートナーの売り方の仕組みを押さえておく必要があります。
同社は、複数の保険会社の商品の中から「推奨商品」をあらかじめ選んでおき、その中からお客の意向に合うものを説明する「推奨販売」という方法をとっています(保険業法第294条、同法施行規則第227条の2第3項第4号)。この売り方では、推奨商品を公正に選んでいるか、お客の意向をきちんと確かめているかが生命線です。関東財務局は、その両方が崩れていたと指摘しました。
01
推奨商品の選び方
商品の良し悪しより、保険会社からの支援の大きさで選んでいた。
02
特定の1社への偏り
共同キャンペーン中、医療保険で推奨商品を全部見せた例はゼロ。
03
意向に合わない提案
苦情2,636件の中から、推奨販売をめぐる苦情15件を確認。
04
法令違反と監視の穴
本人契約3,765件で違反。乗換・多額契約のチェックもなし。
問題①:推奨商品は「見込み客の提供」があるかどうかで決まっていた
本来、推奨商品は保障内容や保険料などの優位性を比べて選ぶものです。同社の社内規程にも、「商品優位性及び顧客への訴求力」を検討すると書かれていました。
ところが実際には、取締役会などで「リーズ提供等の有無」を理由に推奨商品の追加・除外を決めていました。「リーズ」とは見込み客の情報のことです。つまり、お客を紹介してくれる保険会社の商品が推奨リストに入り、紹介のない会社の商品は外される。商品の優位性を検討した記録は確認できなかったとされています。
——関東財務局「株式会社FPパートナーに対する行政処分について」より
社内に警告がなかったわけではありません。社外監査役は「定性評価だけでは恣意的と捉えられかねない」と指摘し、監査役も取締役会で「商品比較表などによる客観的評価が必要である」と求めていました。それでも会社は、少なくとも1年超にわたり具体的な対応を行っていない。取締役会には、出た意見へのその後の対応を確かめる仕組みすらなかったといいます。
関東財務局は、経営陣が「推奨販売におけるリスクを認識せず、保険会社からの便宜供与の実績を重視した保険募集管理態勢を構築」していたと断じています。監査役の声が届かない会社で、現場の営業だけが公正でいられるはずもありません。
問題②:特定の保険会社と共同キャンペーン、医療保険で「全商品を見せた例はゼロ」
同社は2023年3月から、ある特定の保険会社と共同でキャンペーンを始めました。目的は、その保険会社の新契約を増やすことです。
その結果が数字に表れています。2023年11月の医療保険の新規契約を見ると、医療保障を望むお客に対して推奨商品をすべて示した例は1件もなく、2割はその1社の商品だけを勧めていました。処分文書は、医療保障を希望するお客に特定の商品だけを提案した事例が「多数存在」し、「合理的な理由なく特定の保険会社を偏重して推奨していることが強く疑われる」としています。
お客の側から見れば、「いくつかの会社を比べて、これが一番合っています」と言われたつもりで、実は比べる前から答えが決まっていた可能性があるということです。医療保険は長く払い続けるもの。保険料の差が月数百円でも、何十年分となれば家計への影響は小さくありません。
苦情2,636件から浮かび上がった「意向に合わない提案」
関東財務局は、2020年12月から2024年11月までに同社が受けた苦情2,636件のうち、不適切な推奨販売が特に疑われる28件を調べ、推奨販売に関する苦情を少なくとも15件確認しました。処分文書に挙がった事例は次のとおりです。
| お客の希望 | 実際に勧められたもの | 何が問題か |
|---|---|---|
| 収入保障だけ欲しい | 変額保険 | 掛け捨ての保障を望んだのに、保険料が高く運用リスクもある商品を提案 |
| 生命保険会社2社の商品を比べたい | その2社以外の会社の商品 | 希望した2社の商品を見せず、別の会社を勧めた理由の説明も確認できない |
| 貯蓄性の保険はいらない | ドル建て一時払い終身保険 | 募集人の判断でまとまった資金を払う外貨建て商品を推奨。理由の説明も確認できない |
| 医療保障が欲しい | 特定の保険会社の商品だけ | ほかの推奨商品を見せない事例が「多数」 |
とくにドル建ての一時払い終身保険は、為替が円高に振れると円に戻したときの受取額が目減りすることがあります。「貯蓄はいらない」と言ったお客にこれを勧めるのは、希望と正反対です。
こうした提案を防ぐ仕組みもありませんでした。推奨販売のやり方はマニュアルに書かれておらず、募集システムでは推奨理由を説明したかどうかの入力が必須ではなく、提案が適切だったかを後から確かめるモニタリングも行われていなかったのです。
問題③:本人契約3,765件で保険業法違反、乗換・多額契約も見逃し
同社は大半の募集人に成果連動型の報酬を採用しています。保険会社から受け取った代理店手数料に一定の支給率を掛けた額が、そのまま募集人の報酬になる仕組みです。
問題は、募集人が自分や同一生計の家族の保険に入った「本人契約」でも、この報酬を払っていたことです。実質的には、契約者である募集人の保険料を割り引いているのと同じで、保険業法第300条第1項第5号が禁じる「特別の利益の提供」にあたります。関東財務局の認定では、2025年1月時点で有効な本人契約3,775件のうち3,765件で違反がありました。違反かどうかの検討は「全く行われていない」とまで書かれています。
乗換や解約を繰り返す募集人を検知できず
さらに、不適切な募集の典型である「多件数・多額契約」を見張る仕組みもありませんでした。処分文書は例として、1人の契約者が10件以上の生命保険に入っているケースや、年収に比べて多額の保険料を払っているケースを挙げています。
実際に、多件数・多額契約や、短期間での乗換・解約を繰り返す募集人が複数いたのに、会社は把握できていませんでした。報酬が手数料に連動する仕組みでは、新しい契約を取るほど募集人の収入が増えます。乗換を勧められたお客の側は、解約返戻金の目減りや保険料の上昇という形で損をしかねません。
⚠️ こんな勧められ方をしたら要注意
- 「比べた結果です」と言うのに、他社の商品を見せてもらっていない
- 保障だけ欲しいのに、変額保険や外貨建て保険など運用型の商品を勧められる
- 入ってまだ数年なのに、「もっと良い保険がある」と乗換を勧められる
- 収入に比べて保険料が高すぎる、家族全員で10件以上の保険に入っている
便宜供与をしていた生命保険8社にも報告徴求命令
今回の処分は代理店だけでは終わりませんでした。金融庁は同じ8月6日、FPパートナーに便宜供与をしていた生命保険会社8社に対し、保険業法第128条第1項に基づく報告徴求命令を出しています。
| 報告徴求命令を受けた生命保険会社 | グループ等 |
|---|---|
| アフラック生命保険 | 外資系 |
| アクサ生命保険 | 外資系 |
| FWD生命保険 | 外資系 |
| 東京海上日動あんしん生命保険 | 東京海上グループ |
| SOMPOひまわり生命保険 | SOMPOグループ |
| はなさく生命保険 | 日本生命グループ |
| メディケア生命保険 | 住友生命グループ |
| なないろ生命保険 | 明治安田グループ |
どれもテレビCMなどでおなじみの会社です。8社は2025年9月にかけて報告書を出しましたが、東洋経済によると、金融庁は2026年に入っても取引の適正化の進み具合を追加で報告するよう求めています。
便宜供与に使われる広告費や支援の費用は、保険会社の経費です。その原資は、私たちが払っている保険料にほかなりません。契約者の保険料が、代理店を囲い込むための競争に使われていたと考えると、他人事ではいられません。
保険会社と乗合代理店の「なれ合い」が問題になったのは、今回が初めてではありません。2025年3月には、大手損保4社が乗合代理店への出向者を通じた情報漏えいなどで業務改善命令を受けています。あわせて読むと、金融庁が業界全体に何を求めているのかが見えてきます。
- 東京海上日動火災保険への業務改善命令(2025年3月)
- 損害保険ジャパンへの業務改善命令(2025年3月)
- 三井住友海上火災保険への業務改善命令(2025年3月)
- あいおいニッセイ同和損害保険への業務改善命令(2025年3月)
処分後のFPパートナー:業務改善計画と社長らの報酬返納
2024年9月
金融庁がFPパートナーに報告命令
生命保険会社からの広告費をめぐる問題で、報告を求める(日本経済新聞)。
2025年8月6日
❌ 業務改善命令、生保8社にも報告徴求命令
関東財務局が保険業法306条に基づき処分。
2025年10月6日
業務改善計画を提出、社長らが報酬返納
経営責任として社長らの報酬返納を発表(日本経済新聞)。同社は「便宜供与に依存する組織体質になってしまった」と総括したと報じられている。
2026年4月末
初回の定期報告の基準日
以後6か月ごとに、改善の進み具合を関東財務局へ報告する。
業績にも影響が出ています。2025年11月期の第3四半期決算では、売上高が243億円で前年同期比9.7%減、営業利益は22億円で49.8%減。新規契約件数も11.8%減ったと同社の決算資料は示しています。
マネードクターで契約した人が確認したいことと対処法
処分が出たからといって、すでに入っている保険が無効になるわけではありません。保険会社との契約はそのまま続きます。慌てて解約すると、かえって損をすることもあるので注意が必要です。
⚠️ 家族で一度見直したいチェックポイント
- 保険証券を出し、「何のために入ったか」と実際の商品が合っているか確かめる
- 保障が欲しかったのに、変額保険や外貨建て保険など「運用型」になっていないか
- 毎月の保険料が、家計に対して重すぎないか
- 契約時の「意向把握書面」や提案書が手元にあるか(なぜその商品を勧めたかの記録)
- 家族が知らない契約がないか、受取人は誰になっているか
⚠️ 解約・乗り換えの前に注意すること
- 早い時期の解約は、解約返戻金が払った保険料を大きく下回ることが多い
- 年齢が上がってからの新規加入は保険料が高くなり、健康状態によっては入れないこともある
- 新しい保険の保障が始まる前に古い保険を解約しない
- 契約から日が浅ければ、クーリングオフ(原則、書面を受け取った日などから8日以内)が使えるか確認
「勧められたとおりに入ったけれど、説明と違う」と感じたら、まずは契約先の保険会社の窓口に相談しましょう。話がまとまらないときは、生命保険協会の「生命保険相談所」や、金融庁の「金融サービス利用者相談室」も利用できます。
これから乗合代理店で相談するなら、「なぜこの会社のこの商品なのか」を必ず聞いてください。乗合代理店には推奨理由を説明する義務があります。答えがあいまいなら、その場で契約しないのが一番の自衛策です。
📌 この処分のポイントまとめ
- 関東財務局は2025年8月6日、「マネードクター」のFPパートナーに保険業法306条に基づく業務改善命令を出した。
- 推奨商品を「リーズ(見込み客)提供」など保険会社からの便宜供与の実績で選び、経営陣が特定の保険会社の販売を強く指示していた。監査役の指摘は1年以上放置された。
- 特定の保険会社との共同キャンペーン中、医療保険で推奨商品をすべて示した例はゼロ、2割はその1社の商品だけを推奨していた。
- 本人契約3,775件のうち3,765件で手数料を募集人に払い、保険業法300条1項5号に違反した。
- 便宜供与をしていたアフラック生命など生保8社にも報告徴求命令が出た。
- 既存の契約は有効。見直すときは解約を急がず、保険会社や相談窓口に相談する。
まとめ:「無料相談」の裏側を知っておく
相談は無料でも、代理店は保険会社からの手数料や支援で成り立っています。そのこと自体は悪いことではありません。問題は、その支援の大きさが、お客に勧める商品を左右していた点です。
今回は代理店だけでなく、支援を競っていた保険会社8社にも金融庁のメスが入りました。業界全体で「顧客本位」を立て直すきっかけになるのか、今後の定期報告を見守りたいところです。
私たちにできるのは、勧められた理由を確かめ、家族のために本当に必要な保障かを自分で考えることです。保険は家族を守るためのもの。その原点を忘れなければ、大きく損をすることは避けられます。
よくある質問(FAQ)
Q. マネードクターで入った保険は解約したほうがいいですか?
A. 処分によって契約が無効になることはありません。解約すると返戻金が少なかったり、同じ条件で入り直せなかったりすることもあります。まずは保険証券で、入った目的に合う内容か確かめ、疑問があれば保険会社の窓口に相談しましょう。
Q. 「便宜供与」とは何ですか?
A. 保険会社が代理店に対して、手数料以外に与える見返りのことです。高額な広告費、見込み客の紹介、社員の派遣やあっせんなどが報じられています。行き過ぎると、代理店がお客より保険会社の都合で商品を選ぶおそれがあります。
Q. 説明と違う保険に入らされたと感じたら、どこに相談できますか?
A. まず契約先の保険会社のお客さま窓口へ。解決しない場合は、生命保険協会の「生命保険相談所」(裁定審査会によるADR手続きもあり)や、金融庁の「金融サービス利用者相談室」に相談できます。
Q. 乗合代理店で失敗しないコツは?
A. 「なぜこの会社のこの商品を勧めるのか」を必ず聞くこと、その代理店がどの保険会社を扱っているかを確認すること、その場で決めずに家族と相談することです。保障の目的(死亡・医療・老後資金など)を先に自分で決めておくと、合わない商品を見抜きやすくなります。
🛡 保険会社の処分・トラブル記事まとめ
保険会社・代理店への行政処分や、保険営業をめぐる事件・判決をまとめています。ご自身やご家族の契約の見直しにお役立てください。
出典・参考資料
- 関東財務局「株式会社FPパートナーに対する行政処分について」(2025年8月6日)
- アフラック生命保険「金融庁による報告徴求命令の受領について」(2025年8月7日)
- 日本経済新聞「金融庁、『マネードクター』とネクステージに改善命令 保険募集巡り」
- 日本経済新聞「『マネードクター』のFPパートナーが業務改善計画、社長ら報酬返納 金融庁処分受け」
- 日本経済新聞「金融庁、FPパートナーに報告命令 生保の広告費問題」
- ダイヤモンド・オンライン「FPパートナーに業務改善命令、便宜供与を行った生保8社に報告徴求命令を出した金融庁の真意とは?」
- 東洋経済オンライン「生命保険8社が金融庁に『代理店とのなれ合い排除』の報告書提出」
- 東洋経済オンライン「金融庁が代理店取引をめぐって生命保険8社に是正圧力」
- FPパートナー「決算説明資料 2025年11月期 第3四半期」(2025年10月15日)
- ほけんのねっと「FPパートナーに金融庁から業務改善命令」
【免責事項】本記事は関東財務局の公表資料、企業の開示資料および報道をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。特定の保険商品の加入・解約を勧めるものではなく、個別の契約についての助言でもありません。保険の見直しは、契約先の保険会社や専門家にご相談のうえ、ご自身の判断で行ってください。記載内容は執筆時点の情報に基づいています。



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