📅 令和7年(2025年)11月14日判決(犯行:令和6年5月25日) | ⚖️ 徳島地方裁判所 | 📂 殺人未遂(刑法60条・203条・199条)
徳島市内の駐車場で、刃体約69センチの日本刀で男性の胸や腹を何度も突き刺したとして殺人未遂罪に問われた清谷孝之被告(59)。徳島地裁は求刑懲役15年に対し、懲役12年の実刑を言い渡しました。
発端は、被告人が長年従ってきた人物と被害者との電話口論でした。「殺すつもりはなかった」「自分には動機がない」という弁解はなぜ通らなかったのか。殺意・共謀・量刑の3つの判断を判決文から整理します。
徳島・日本刀殺人未遂事件の概要|電話の口論から深夜の駐車場へ
判決によると、事件のきっかけは令和6年5月25日、被告人と長年の主従関係にあったAと、被害者Cとの電話での口論でした。2人は「甲」という場所で会う約束をし、Aは被告人やBらを連れて現地へ向かいます。Cも知人Dと一緒に現れました。
同日午後11時59分頃、甲の西側駐車場で、被告人はAの指示をきっかけにCを蹴りつけたうえ、日本刀で左膝付近を切りつけ、胸や腹を複数回突き刺しました。Cは一命を取り留めましたが、右の多発肋骨骨折、肝臓・右腎臓の損傷、胃の貫通創という重い傷を負っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁判所・判決日 | 徳島地方裁判所 令和7年11月14日 |
| 主文 | 懲役12年(求刑懲役15年)、未決勾留日数340日算入 |
| 凶器 | 日本刀(刃体の長さ約69センチ) |
| 関係者 | A(指示役・被告人と長年の主従関係)、B(傷害の限度で共謀) |
| 争点 | ①殺意の有無 ②Aらとの共謀の成否 ③量刑 |
争点①殺意|「殺すつもりはなかった」は通らない
裁判所が殺意を認めた根拠は、凶器の危険性と傷の状態です。日本刀は刃が長く鋭利で、殺傷能力が極めて高い凶器です。腹・胸・背中の刺し傷はいずれも深く、力を込めて刺したものと認められました。
——徳島地方裁判所判決より
ここで認められたのは「未必の殺意」です。「死んでも構わない」と分かっていながら行為に及べば、確実に殺そうとしていなくても殺意があったと評価されます。被告人がとどめを刺さず、Dが救急車を呼ぶのを妨げなかった点についても、確定的な殺意がなかったことを示すにすぎず、殺意そのものは否定されないと判断されました。
「身を守るためだった」「動機がない」も退けられた
弁護人は、「来たぞ」という声を聞いてAに危険が迫ったと感じた防衛的な行動だったと主張しました。しかし裁判所は、Cが素手で無防備だったこと、攻撃の素振りもなかったこと、狙いを定めた攻撃だったことから、この主張を退けています。
被告人自身にはCを襲う動機がないという主張もありました。これについて判決は、被告人とAには長年の主従関係があり、AとCの間には以前からトラブルがあったと指摘。自分に独自の動機がなくても、Aの指示で犯行に及ぶことは十分考えられるとしました。

争点②共謀|「道具を持ってこい」と「行け」の重み
この事件は、被告人が一人で起こしたものではありません。裁判所は、指示役のAと被告人の間で共謀が成立していたと認めました。決め手になったのは、事件前と現場でのAの言動です。
01
武器の準備を指示
AはBらに連絡し、被告人に武器となる「道具」を持ってくるよう指示。自らも包丁を2本用意した
02
現場で「行け」
Aの「行け」という指示に応じて、被告人とBが暴行を始めた
03
倒れても動じない
Cが倒れてもAは動じず、倒れた相手に凄んだ。被告人の行為を予想し受け入れていた証拠とされた
——徳島地方裁判所判決より
一方、Bは「人と会う」と聞かされ、護身用に包丁を持つよう言われていました。被告人の日本刀も見ており、喧嘩になる可能性を認識していたことから、Bについても少なくとも傷害の限度で共謀が成立したと認定されています。
Aは公判で指示や凄んだことを否定しましたが、被告人が事件後に知人へ「指示があった」と話していたことなどから、信用できないとされました。暗く不鮮明な防犯カメラ映像よりも、CとDの供述が傷の状態と整合するとして重視された点も、この判決の特徴です。
争点③量刑|求刑15年から懲役12年になった理由
判決は、まず犯行の悪質さを厳しく指摘しています。腹部の刺し傷は腹部大動脈を傷つけ、大量出血によるショックを招くおそれがあるもので、特に危険性が高いとされました。Cは複数の内臓を損傷して大量の輸血を受け、数週間は予断を許さない状態が続きました。
さらに、左手指の機能が全廃する後遺症が残り、日常生活にも支援が必要になっています。Aが主導した事件とはいえ、主要な暴行を担った被告人の役割は不可欠で、責任は重いと判断されました。
| 刑を重くした事情 | 被告人に有利に考慮された事情 |
|---|---|
| 無防備な相手を日本刀で複数回、強い力で刺した | 組織的な犯行でも、計画性の高い犯行でもない |
| 複数の内臓損傷、左手指の機能全廃の後遺症 | 被害者への直接の悪感情はなく、殺意は未必的 |
| 主要な暴行を担い、役割は不可欠 | 自首は不成立だが、自ら警察署に出頭した |
| Aと共同での傷害の前科がある | 息子が更生への協力を誓約 |
反省の面では厳しい評価です。被告人は法廷で一応の謝罪をしたものの、重要な点は「記憶がない」とあいまいに答え、不合理な弁解を続けました。再犯を防ぐにはAとの関係を断てるかが重要なのに、Aとの決別を断言しなかったことも不利に扱われています。
弁護人は「被害者がAを挑発した」とも主張しましたが、死亡の危険が高い暴行を誘発したとはいえないとして退けられました。結論として裁判所は、有利な事情は乏しいとしつつ、懲役12年が相当と判断しています。

この判決から学べること|「呼ばれて行っただけ」でも重罪に
この判決が示しているのは、自分に動機がなくても、指示されて凶器を持って行き、暴力に加われば重い刑事責任を負うということです。「殺すつもりはなかった」という弁解は、凶器と傷の状態の前ではほとんど意味を持ちません。
家族がいる立場として気になるのは、トラブル相手と「会って話をつける」場面です。口論の延長で人が集まり、刃物が持ち込まれれば、一瞬で取り返しのつかない事態になります。身近な人がそうした場に呼ばれそうなときは、行かせない、警察に相談するという選択肢を家族で共有しておきたいところです。
✅ トラブルに巻き込まれそうなときの相談先
- 身の危険が迫っているとき:110番
- 脅されている・呼び出されているなど、緊急ではない相談:警察相談専用電話 #9110
- 暴力団や元関係者が絡むトラブル:各都道府県の暴力追放運動推進センター
- 犯罪被害にあったとき:法テラス 犯罪被害者支援ダイヤル 0120-079-714
よくある質問(FAQ)
Q. 「未必の殺意」とは何ですか?
A. 相手が死ぬ危険が高いと分かっていながら、それでも構わないとして行為に及ぶ場合の殺意です。この判決では、日本刀で胸や腹を強く複数回刺したことから、未必の殺意が認定されました。
Q. 指示された側にも重い責任が問われるのですか?
A. 問われます。この事件では指示役のAが主導したとされましたが、主要な暴行を担った被告人の役割は不可欠で責任は重いとされ、懲役12年の実刑となりました。
Q. 警察に出頭したのに自首にならなかったのはなぜですか?
A. 判決は自首が成立しないとしたうえで、自ら出頭したことは被告人に有利な事情として考慮しています。判決文に自首不成立の詳しい理由は書かれていませんが、一般に、犯人がすでに捜査機関に特定された後の出頭は自首に当たりません。
Q. 求刑より3年軽くなったのはなぜですか?
A. 組織的・計画的な犯行ではないこと、被害者への直接の悪感情がなく殺意が未必的にとどまること、自ら出頭したことなどが有利に考慮されたためです。ただし判決は、反省が不十分であることも指摘しています。
📌 この判決のポイントまとめ
- 徳島地裁は、日本刀(刃体約69センチ)で男性の胸や腹を複数回刺した清谷孝之被告に、求刑15年に対し懲役12年を言い渡した。
- 凶器の性状、攻撃部位、強度、回数から未必の殺意が認定され、「身を守るためだった」「動機がない」との主張は退けられた。
- 指示役Aの「道具」準備の指示と現場での「行け」から共謀が認められ、Bにも傷害の限度で共謀が成立した。
- 被害者には左手指の機能全廃の後遺症が残った。出頭は有利に考慮されたが、あいまいな弁解やAとの関係を断たない姿勢は不利に扱われた。
まとめ|凶器と傷が「本心」より雄弁だった判決
「殺すつもりはなかった」「指示されただけ」――刑事裁判でよく聞く弁解ですが、この判決はどちらも正面から退けました。裁判所が見たのは本人の言い分ではなく、刃の長さ、刺した場所、傷の深さ、そして現場でのやり取りです。
被害者は命こそ助かったものの、左手の指が動かなくなり、生活に支えが必要な体になりました。人間関係のもつれが刃物で決着する怖さを改めて感じます。危ない誘いから身近な人を遠ざけること、そして迷ったら警察に相談すること。それが家族を守るいちばん確かな備えだと思います。
刃物による事件の判決は、鹿児島市の保育士による殺人未遂事件(懲役10年)や大分・日田市の商業施設での刺殺事件(懲役22年)の記事でも解説しています。
出典・参考資料
【免責事項】本記事は裁判所が公開した判決文をもとに、公開時点の情報で作成しています。判決は確定していない場合があります。記事内容は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的なご相談は弁護士などの専門家にお問い合わせください。



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